邂逅の間

「ブギーポップ」とは


「ブギーポップ」とは1998年に開始された、電撃文庫から刊行されている、 上遠野浩平さん著、緒方剛志さんイラストのライトファンタジーノベルです。 シリーズとしての「ブギーポップ」自体は、 初期を除いてあまり内容が成功しているとは思えません(ファンのくせになんという言いぐさだ・・・) が、中堅レーベルであった電撃文庫をメジャーに押し上げ、 さらにはライトノベル全体の方向性をも変えた作品です。 作品の重要度としては小野不由美さんの「十ニ国記」(講談社X文庫ホワイトハート) や神坂一さんの「スレイヤーズ」(富士見ファンタジア文庫)に匹敵すると思います。

「ブギーポップ」はそれまでのライトノベルとはどう違ったのか。 私なりに説明してみたいと思います。

「キャラ個人」レベルでの心理描写


「ブギーポップ」はキャラクターの心理描写が優れていると言われます。 確かに優れていますし、それまでの少年向けライトノベルでは軽視されていた心理描写が、 「ブギーポップ」をきっかけに重視されるようになりました。
ただし、少女向けのライトノベルでは「ブギーポップ」よりも前から、キャラの深い、切ない心理描写がありました。 前田珠子さんの「破妖の剣」(コバルト文庫)、 小野不由美さんの「十ニ国記」、 茅田砂胡さんの「デルフィニア戦記」(中公文庫)。 これらの作品の心理描写はみな素晴らしいものです。 また、少年向けライトノベルでもヒット作にはならなくとも深い心理描写の作品がありました。
単にキャラの心理描写という点では、 「ブギーポップ」は過去のライトノベルを越えるものではないと思っています。

「個人対世界」の心理描写


ここからが本題です。長いです。(笑)
(作成中)

<メモ>
・「ブギーポップ」のキャラは「世界」について語るのが好きである。
・「世界」を肯定的に捉えているキャラもいるが、多くは否定的に考えている。 例えば、自分という「個人」は「世界」から孤立していると考えている。 ただ、このこと自体はブギーポップ以前のライトノベルにもあった。
・「ブギーポップ」には「世界」から「個人」への回答がある。「個人対世界の対話」がある。 それを実現する手段として、ユング心理学における「集団的無意識」を具体化させた存在を登場させ、 「世界」や「集団」の代弁者にしている。 例えば、ブギーポップ、イマジネーター、歪曲王、恐らくエンブリオも。
・「集団的無意識」の概念を導入することで、キャラの心理に構造を持たせることができた。 精神世界設定というか心理設定というものができ、 従来の少年向けライトノベルより格段に心理描写に説得力が出た。 もちろん心理描写の一つの手段でしかないけれど、のちのライトノベルに大きな影響を与えている。 例えば「Missing」「Dクラッカーズ」、恐らく「涼宮ハルヒ」も。 ただ小野不由美さんの「魔性の子」もすでに同じ心理設定を持っていたと考えられる。

「ブギーポップ」が「個人対世界」の心理描写において恐らく影響を受けているだろうもの。
・ユング心理学、とりわけ個人的無意識と集団的無意識(普遍的無意識)を分けて捉えている点。
・「新世紀エヴァンゲリオン」。これは今考えれば、 個人個人の心をいったん集団的無意識まで戻した後、自己として再形成させようという話。 「イマジネーター」の企みが「エヴァ」の人類補完計画と似ているのは、外面を似せたのではなく、 目的と手段が同じだったから。
・山田正紀さんのSF、とりわけ「地球・精神分析記録 エルド・アナリュシス」(1977年、現在は徳間デュアル文庫で再版)。

時間軸の交錯と視点の移動


「ブギーポップ」シリーズの第1作「ブギーポップは笑わない」は、 手の込んだ時間軸の交錯と視点の移動で話題となりました。 実はこれは橋本治さんの「桃尻娘」(講談社文庫)を参考にしていると、上遠野さん自身が明かしています (富士見書房「ドラゴンマガジン」2003年8月号コラム「センセイの宝箱」より)。
またライトノベルとしては「ブギーポップ」よりも先に、 藤原京さんの「フロリカ−時の鎖−」(集英社スーパーファンタジー文庫)が 時間軸の交錯と視点の移動を多用しています。 (この「フロリカ」については 他サイトで詳しく書いたことがある ので、興味がある方は読んでみて下さい。)

とはいえ、ライトノベルにおいて時間軸の交錯と視点の移動が当たり前のように使われるようになったきっかけは 「ブギーポップ」であったと言って良いでしょう。
特に「スレイヤーズ」「魔術士オーフェンはぐれ旅」で 富士見ファンタジア文庫の最盛期を作った神坂一さんと秋田禎信さんが、 それぞれ「トラブルシューター・シェリフスターズ」(角川スニーカー文庫)と 「エンジェル・ハウリング」(富士見ファンタジア文庫)で 視点の移動を前提とした作品作りをしたことは、 「ブギーポップ」の影響がとても大きかったことを示していると考えています。

「新人作品」としてのタイムリーな刊行


「ブギーポップ」シリーズは、 1998年2月に1冊目の「ブギーポップは笑わない」が刊行、 24ヶ月後の2000年2月に9冊目の単行本が刊行されました。 その後刊行ペースは落ちるのですが、最初の9冊はちょうど平均3ヶ月に1冊のペースで刊行された訳です。
新人作家に作品、特にシリーズものを矢継ぎ早に出させて話題性で売る戦略は 「ブギーポップ」以前にも色々なジャンルでやられてきたことだと思います。 少女向けライトノベルではもっと凄い例もきっとあるでしょう。 しかし、少年向けライトノベルでこれだけうまくヒットさせた例は、「ブギーポップ」以前には 吉岡平さんの「無責任艦長タイラー」(富士見ファンタジア文庫)、 秋田禎信さんの「魔術士オーフェンはぐれ旅/無謀編」(富士見ファンタジア文庫) くらいしかないのではないかと思います。 ただし、吉岡平さんも秋田禎信さんも新人ではありませんでした。
(ちなみに「タイラー」は最初の10冊が1989年1月から1991年3月までの26ヶ月間というハイペース。 「オーフェン」は25冊目までが1994年5月から2000年7月までの74ヶ月間と、 長期間良いペースを維持しました。)

新人作家に消耗品のように本を乱発させるのはいかがなものかという意見もあるのですが、 その後電撃文庫はこの販売戦略を使って多くのヒットシリーズを世に送り出していくことになるのです。


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