雑誌連載+書き下ろし長編=ヒット?

2000年7月1日

前回の最後に、安井健太郎さんの「ラグナロク」と上遠野浩平さんの「ブギーポップ」について ほんの少し触れましたが、 この2作については、その内容だけでなく、売り方、シリーズ展開でも興味深いものがあります。
それは「書き下ろし長編」と「雑誌連載」の2つを組み合わせて、 シリーズを発表していることです。

富士見書房のドラゴンマガジンを読んでいる方なら「なにを今さら」とお思いでしょうが、 ちょっと説明しましょう。
神坂一さんの「スレイヤーズ」以降、 富士見ファンタジア文庫刊のシリーズでは良く用いられる手法なのですが、 まず「シリーズの本編として書き下ろしの長編」があり、 並行して「長編と同じ設定を用いた別のストーリー」が雑誌に連載されるのです。 この手法の長所は「長編を読み始める前に、どんな作品か雑誌でつまみ食いできる」 というオーソドックスなものもありますが、今ではどちらかというと 「刊行が数ヶ月おきの書き下ろし長編のみより、雑誌連載があった方が話題性が持続できる」 という意味合いが強くなっているようです。

また、この場合の雑誌連載がいわゆる「外伝」ではなく 「書き下ろし長編と対等なストーリー」である事も、この手法の特徴でしょう。
つまり「書き下ろし長編と雑誌連載を両方読むことで二重に楽しめる」という長所もあるのです。
「スレイヤーズ」や秋田禎信さんの「オーフェン」では、 まだ書き下ろし長編を「本編」と呼んでいましたが、 最近の賀東招二さんの「フルメタル・パニック!」や神坂一さんの「シェリフスターズ」では、 もはや「本編」という言葉は使われず、 「ミスリル編/陣高編」(フルメタ)とか「MS/SS」(シェリフスターズ)と呼び、 書き下ろし長編と雑誌連載を最初から完全に対等に扱っています。
(水野良さんの「リウイ」や榊一郎さんの「スクラップド・プリンセス」などは、 書き下ろし長編と雑誌連載の両方を合わせて初めて1つのストーリーになるという、 また別の形式を取っていますね。)

こうした手法が取られているシリーズ作を、思い付くだけ、下の表にまとめてみました。

主な「書き下ろし+雑誌連載」シリーズ作品
「書き下ろしと連載のリンク」の強弱は、 「弱:書き下ろしと連載、両方読んだ方が面白いけれども、書き下ろしだけでもシリーズとして成り立っている。」 「強:書き下ろしと連載、両方読まないとシリーズとして理解できない。」という意味です。
シリーズ
タイトル
作者/
イラストレーター
文庫/
連載雑誌
書き下ろし/
連載の通称
書き下ろし
と連載の
リンク
スレイヤーズ 神坂一/
あらいずみるい
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン
本編/SP.
それゆけ!
宇宙戦艦
ヤマモト・ヨーコ
庄司卓/
赤石沢貴士
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン
本編/Opt.
魔術士オーフェン
はぐれ旅
秋田禎信/
草河遊也
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン
本編/
無謀編
(/プレ編)
召喚教師
リアルバウト
ハイスクール
雑賀礼史/
いのうえ空
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン
本編/EX
封仙娘娘追宝録 ろくごまるに/
ひさいちよしき
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン
本編/
奮闘編
魔法戦士リウイ 水野良/
横田守
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン
(両方とも
本編)
ラグナロク 安井健太郎/
TASA
角川スニーカー文庫
/ザ・スニーカー
本編/EX.
フルメタル
・パニック!
賀東招二/
四季童子
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン
長編/短編
ブギーポップ 上遠野浩平/
緒方剛志
電撃文庫/電撃hp (特になし)
スクラップド
・プリンセス
榊一郎/
安曇雪伸
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン
(両方とも
本編)
トラブルシューター
シェリフスターズ
神坂一/
光吉賢司
角川スニーカー文庫
/ザ・スニーカー
MS/SS
ザ・サード 星野亮/
後藤なお
富士見
ファンタジア文庫
/ドラゴンマガジン

この表は、大体新しい作品ほど下に来るように並べているのですが、 ほとんどの作品が富士見ファンタジア文庫であり、 それ以外となると「ラグナロク」が角川スニーカー文庫で、 「ブギーポップ」が電撃文庫で初めての作品であることが分かると思います。
(ちなみに私は集英社の「コバルト」誌を読んでいないので確信は持てませんが、 集英社コバルト文庫でこのような手法を用いている作品は今のところないと思います。)

要するに「ラグナロク」「ブギーポップ」は、角川スニーカーと電撃の編集部が 「悪どいと言われようが、えげつないと言われようが、富士見の猿真似と言われようが、 なりふり構わず売ってやるぜ!」 と初めて本気になった作品なのです。

そして作者側がその期待に応えている事も重要です。
というのも、上の表には載せていませんが、 実際にはもっと多くの作品がこの手法を用いようとして、 連載が続かずに挫折しているからです。 「この手法を使ったので売れた」という面もありますが、 「この手法が使えたので売れた」「売れるからこの手法が使えた」という面もあるのです。 そこそこの人気を保って書き下ろし長編と雑誌連載を継続して行ける、 「コンスタントに書ける作家」だからこそできる芸当なのです。

という訳で、ライトファンタジー(に限らないでしょうが)の興味深さとか、流行り廃りというのは、 作品の内容そのものだけではなくて、売り方や作品展開にもある事を、 多少はお分かり頂けたでしょうか?(笑)
もしあなたが、「これからブレイクしそうな作品」を読みたいのであれば、 今どき「ブギーポップ」を読んでいては駄目ですよ。 ドラマガ&ファンタジア文庫編集部のもくろみに乗せられて 「棄てプリ(スクラップド・プリンセス)」か「ザ・サード」を読みましょう。

もちろん、一番大切なのは、 新しくても古くても自分の心に残る作品を読む事なんですけれどね。

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