砂糖菓子(ライトノベル)だって甘くない

2005年8月11日

 最近、ちょっと思い立ちまして富士見ミステリー文庫のリストを作り始めたのですが、 その時少々驚いたことがありました。
 創刊時から順に刊行情報をリストアップしていこうと、 富士見ミステリー文庫の公式サイトで2000年11月(創刊の月です)の既刊を検索したところ、 なんと「ハード・デイズ・ナイツ」と「Dクラッカーズ」の2点しか出てきませんでした。
 しかし私の手元にある創刊時の広告では8点出ていたことになっています。 しばし首をひねったあと、気付きました。そうか、残りの6点は既に絶版になっているのだと。

 富士見ミステリー文庫のようないわゆる「ライトノベル」と呼ばれる小説は、 絶版になるのが早いと言われています。 「ライトノベルとは消費される小説だ」などとおっしゃる方もいらっしゃるようです。
 しかし実際に、何年くらいで何割ほどが絶版になっていくのか調べたデータを私は見たことがありません。 (とは申すものの、他の方が調べられてものがあるかも知れません。Webは広いですから。) そこで「ちょうどいい、富士見ミステリー文庫なら調べるにも手頃だろう」と、 2005年8月分までの既刊216点について、購入可能か絶版かを調べてみました。

 次のグラフが調べた結果です。


富士見ミステリー文庫の購入可/絶版状態(2005年8月現在)

 ここで
 購入可:公式サイトで購入できるもの。
 品切・重版未定:公式サイトで品切・重版未定となっているもの。
 絶版:刊行された情報はあるが、公式サイトの既刊リストにないもの。
のことです。

 (「公式サイトの既刊リストにないもの=絶版」であると判断しましたが 「違います」という情報がありましたらメールででもご指摘下さい。修正いたします。 公式サイトの既刊リストにないものは大手ネット書店でも購入不可になっていることを確認しているので まず間違いないと思いますが。)

 2003年の末に刊行点数が一度ゼロになって、直後にバーストのように跳ねあがっていますが、 この時にリニューアル創刊が行なわれています。
 これより後で刊行された作品は2005年8月現在では全て購入可になっています。

 しかしリニューアル刊行の直前、現在から2年ほど前あたりから 「品切・重版未定」という作品が出てきます。
 そして2年半前になるとついに「絶版」が登場します。

 それより前にさかのぼっていくと、刊行作品全てが健在という月も時にはあるのですが、 3年前になるととうとう刊行作品全てが「絶版」という月が出てきます。
 3年前より以前ではほぼ常に「品切・重版未定」と「絶版」が刊行点数の半分以上になり、 4年前になるともはや「ハード・デイズ・ナイツ」「Dクラッカーズ」「東京タブロイド」など レーベル初期を支えた限られたシリーズ以外は「絶版」になってしまいます。

 刊行から何年経っているかで区切って、「品切・重版未定」「絶版」になっている割合を見てみましょう。

刊行から 刊行点数 購入可 品切・
重版未定
絶版
トータル 216150
(70%)
18
(8%)
48
(22%)
1年未満 4949
(100%)
0
(0%)
0
(0%)
1年以上2年未満 4646
(100%)
0
(0%)
0
(0%)
2年以上3年未満 4532
(71%)
9
(20%)
4
(9%)
3年以上4年未満 4215
(35%)
7
(17%)
20
(48%)
4年以上 348
(23%)
2
(6%)
24
(71%)

 刊行から2年までは安泰なのですが、2年が経過するとリストラが始まり、3〜4年で急激に進行し、 4年が経過した時にはもはや1/4しか生き残っていないことが分かります。
 売れなければ容赦はないようで、レーベル創刊時のマスコットキャラクターだった「フジコ」が登場する 深見真さんの「探偵王女フジコ」シリーズですら「品切・重版未定」、 今やレーベルの牽引役となった桜庭一樹さんのかつてのシリーズ「B‐edge age」も「絶版」です。

 トータルでの生き残り率が70%ありますが、これは富士見ミステリー文庫の歴史がまだ浅いからです。 歴史の長いレーベルになると、これがどんどん下がっていくでしょう。

 これはほんの1レーベルの例に過ぎませんし、 また、ライトノベルではない普通の小説ではどういう事情になっているのかも私は存じません。 なので、4年で3/4の作品が流通から淘汰されてしまうということが ライトノベル全般から見て、あるいは小説全般から見て 相対的にどこまでシビアな部類に入るものなのか分かりません。

 けれども上のグラフと表を作って、 プロの作家さんがご自身のサイトで「重版決まりました!」と大喜びで書かれる気持ちが ほんの少しだけ分かったような気がいたします。
 重版されるということは、つまり上のグラフや表で言えば、緑の帯の中に残ると言うことですよね。 プロの作家として食べていくためには、ただ本を出すだけでなく、この中に踏み止まらなければならない訳です。
 出版社はいくら「夢を売る」とか言っていても慈善事業をやっている訳ではありませんから、 売れない本は絶版にしますし、絶版になるような本ばかり書く作家には仕事をまわさなくなります。 ですから作家さんにとってはこの緑の帯の中に踏み止まれれば、生き残れれば勝ちなのです。

 もちろん売れる=良いという訳ではありませんが、売れた、重版された、 というだけでも大したものなのです。
 そして5年、10年と時が経過しても売れ続ける作品、 解説本の年表に載るような作品は消費に耐えることができたごく限られたものなのです。 一方でその影には絶版で消えていってしまう本が何倍も、もしかすると何十倍もあるのです。

 なにが言いたいのか私自身にもよく分からなくなってまいりましたが、 ライトノベルなんて呼ばれて持てはやされて、毎月毎月どかどかと新刊が出る (まあ富士見ミステリー文庫は少ない方なのですが)華やかな業界も、 裏返せばサバイバルな世界なのです、 それが良いか悪いかは別にして貴方が触れているのはそういうジャンルなのですよ、 と分かったようなふりをして子供を見くだして満足している大人のようなセリフで無難にまとめて 今回は撤収しようと思いまする。

 それではまた次回、お付き合い願いいたします。(ぺこり)

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