観劇


ジャン・ベロー画
「The Lobby of the Paris Opera(パリ、オペラ座のロビー)」
発表年不明

劇場の座席には様々な種類と呼び名があり、劇場によっても異なるようです。


ジャン・ベロー画
「La Baignoire(一階桟敷席)」1883年

パリのガルニエのオペラ座の場合、1階の左右にあるボックス席を「Baignoire(ベニュワール)」と呼ぶようです。 「Baignoire」に挟まれた舞台正面の1階席は平らになっていて、 「Orchestra(オーケストラ)」と呼ばれ、日本語では「平土間席」と訳すようです。
「Orchestra」の前部にはオーケストラが陣取っています。 オーケストラがいるのでその席を「Orchestra」と呼ぶのかと思っておりましたが、 実はその逆で、「Orchestra」という席の名前が先にあり、 そこに座る楽団もオーケストラと呼ぶようになったようです。
上のベローの絵にも「Baignoire」の窓の向こうに「Orchestra」が描かれています。 そして「Orchestra」には、あからさまに舞台を見ていない人も・・・


エドガー・ドガ画
左:「The Orchestra of the Opera(オペラ座のオーケストラ)」1870年
右:「Ballet Scene of Meyerbeer's Opera(マイアベーア・オペラのバレエシーン)」1876年

「Orchestra」から舞台を見るとこのようになります。 ここでも舞台とはあさっての方向にオペラグラスを向けている人がいます。
左の絵の左上にちらっと「Baignoire」が描かれているのがお分かりになりますでしょうか。


メアリー・カサット画
左:「The Loge(桟敷席)」1880年
右:「Lydia in a Loge, Wearing a Pearl Necklace
(真珠の首飾りをつけた桟敷席のリディア)」1879年

パリのオペラ座の場合、2階よりも上に馬蹄型に並べられたボックス席を「Loge(ロージェ)」と呼ぶようです。 2階、3階、劇場によっては4階、5階にも「Loge」があるようです。 上のカサットの2点で背景に描かれているのが「Loge」です。
絵の題名こそ「Loge」ですが、女性が座っているのは「Loge」よりも下方、「Orchestra」の後方の席です。 パリのオペラ座の場合、この席は「Balcon(バルコニー)」と呼ぶようです。


左:ピエール・オーギュスト・ルノワール画
「The First Outing(初めてのお出かけ)」1876年
右:メアリー・カサット画「At the Opera(オペラ座にて)」1878年

カサットはオペラ座の雰囲気を出すために「Loge」の構造を描くことに熱心でした。 構図の似ているルノワールの絵と比べてみると、 ルノワールが色彩を重視しているのに対し、 カサットは「Loge」の構造にこだわっていることが分かります。




メアリー・カサット画
上:「At the Theater(劇場にて)」1879年
下左:「At the Theater(劇場にて)」1879年
下右:「In the Box(桟敷席にて)」1879年

カサットの描くオペラ座では、必ずと言って良いほど女性が日本の扇を持っています。 カサットが観劇の絵を描いたのは1878〜1882年ころですが、 最初は扇を閉じて持っている絵が多いのに対し、 次第に扇を広げている絵が多くなっていきます。 これには、奥に見える「Loge」が描く弧と手前の扇の弧とを対比させることで 空間的な奥行きを持たせる構図上の狙いがあったのではないかと思います。
また、日本の扇はカサットの日本への強い感心の現れでもありました。


ジャン・ベロー画
「Representation at the Theatre of Varietes(寄席の上演)」1888年

このベローの絵はひょっとするとオペラ座ではないかも知れませんが、 舞台と「Orchestra」「Baignoire」「Loge」の位置関係がよく分かります。 「Baignoire」には例によって例のごとく変な方向を見ている人がいらっしゃいます。


エドガー・ドガ画
左:「Ballet Rehearsal on Stage(バレエの舞台稽古)」1874年
右:「Dancers in the Old Opera House(旧オペラ座の踊り子)」(部分)1877年

どちらの絵も右端の手前に「Orchestra」、奥に下から順に「Baignoire」「Loge」が描かれています。
左のリハーサルの絵は、恐らく「Loge」に入って描いたものでしょう。 右の絵は舞台の袖から見たものです。


ジャン・ルイ・フォラン画
「The Singer in Pink(ピンクのドレスの歌手)」1895年

ドガと共に踊り子を多く描いたフォランも「Orchestra」「Baignoire」「Loge」を描いています。
ドガやベローの絵でもそうなっているのですが、舞台の前端から上向きに照明が当てられているのですね。


ジャン・ベロー画
「The Music Hall Singer(歌劇場の歌手)」発表年不明


ピエール・オーギュスト・ルノワール画
「La Loge(桟敷席)」1874年

上記の「Loge」の構造を考慮してこのルノワールの絵をご覧になってください。 「Loge」から舞台を見るためには下を見下ろすはずです。 しかしこの絵の後方の男性は明らかに上を見上げています。 恐らく男性は舞台とは違うところを見ているのでしょう。
何処を見ているのか?ご想像にお任せします。


アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック画
「The Box with the Gilded Mask(黄金の仮面のある桟敷席)」1893年


エバ・ゴンザレス画
「Une Loge aux Italiens(イタリア人座の桟敷席)」1874年


ピエール・オーギュスト・ルノワール画
「The Loge(桟敷席)」1879年


ピエール・オーギュスト・ルノワール画
「Box at the Opera(オペラ座の桟敷席、または音楽会にて)」1880年

「桟敷席」とは通常は指定の貴賓席のことを指すようですが、 絵画では大抵「Loge」のことを指します。 「Loge」や「Baignoire」「Box」と題が付いていれば「桟敷席」と訳します。 そういうものだと思ってください。


エドガー・ドガ画
「Woman with Opera Glasses(オペラグラスを持つ女性)」
1876年


アンナ・ビリンスカ・ボーダノビッチ画
「Portrait of a Lady with Opera Glasses
(オペラグラスを持つ女性)」
1884年


ベルト・モリゾ画
「Before the Theatre(観劇の前)」1875年

オペラグラスも観劇の重要な小道具です。
背景が描かれていなくとも、オペラグラスを持っていれば、そこはオペラ座なのです。

「ウィンスロウ美術館」に戻る。

このページに関するご意見、ご感想は、
ぎをらむ、こと嬉野通弥(ureshino@i.bekkoame.ne.jp)まで。