いつもと同じ日々

「今日はここまで、かな」
辺りを不思議な機械で埋め尽くされた部屋に、彼女はいた
ウェンディル・リクルティス、16
宝石商をしているハッケンバード財団に潜り込んでいるスパイである
AK専門発掘業者「ファウンドフォーゲット」から派遣されている彼女は 宝石を輸送転送し、ファウンドフォーゲットの資金源を潤す役目であった
コレだとスパイではないだろうが、ファウンドフォーゲットは不思議な話をうわさで聞いていた
『ハッケンバード財団が太古のAKを発掘した』と
この真相を確かめるべく、ウェンディルを送り込んだのであった
「今日もAKについての情報は得られなかったわね・・・どうしたものかしら?」
一人ぼやきながら、いつも睡眠をとっている場所まで移動する
「・・・ちっ」
彼女が急に足を止めた
通路の先から来る気配に気づいたのである
「・・・」
息を殺して辺りを見渡す
都合の悪いことに身を隠せそうな場所はない
「・・・ドリーム?」
気配は誰かを呼ぶ
いや、彼女を呼んだのだ
コードネーム、ドリームを

「何だ・・・ファルか」
彼女は安堵のため息をもらす
ファルとはファウンドフォーゲットが派遣したスパイの一人で、 主に情報を流したり、内部工作を行っている
そして、ウェンディルの恋人
「ウェンディル・・・最初はコードネームで呼べと言っておいただろう」
ファルがあきれたように言う
「あ・・・ごめん、ミスト」
ファクルティス・ディストライシャル、通称ファル、そしてコードネーム、ミスト
「どうだった?AKは?」
ファルが聞く
「ん・・・何にも手がかり無し、よ」
「そうか・・・こっちはいつもと変わらず、だ」
彼が言ったこの一言を覚えている者がいまいるだろうか?
『いつもとかわらず』・・・
「何よ、退屈してるって言うの?」
「まあな、いつもと同じ日々ってのも飽きてくるもんだよ」
『いつもと同じ日々』・・・
「いつもと同じ日々、ねえ・・・」
彼女がこの言葉を次に口にするのは・・・2年後のことになる
この時点では誰も知らなかったわけだが・・・

「そんなんだと見つかって死んじゃうぞ」
軽薄な口調のどこかに、心配しているという感情があることをファルは感じ取った
「そうだな・・・気をつけるよ」
ファルはそれについては何も言わず・・・
“「じゃあな」”とだけ言ってウェンディルと別れた
それからウェンディルも、眠りにつこうとしていた
“あの”出来事さえなければ・・・



【緊急事態!緊急事態!】
あれから3時間程度すぎた頃、突如警備システムが作動し、警報が鳴り響いたのだ
「しまった!バレた?!」
ウェンディルは目が覚めると無意識にファルのところへ向かっていった
「私はバレてないんだから・・・もしかすると・・・」
【AK格納庫に侵入者!AK格納庫に侵入者!】
「AK格納庫・・・もしかしたら例の・・・?!」
彼女は警備メカの目をかいくぐり、警備員が活動をする前にファルの寝床に到着した、が
「うそぉっ!」
ファルの姿はどこにもなかった
仕方なくAK格納庫へ向かう彼女
そのころ格納庫では・・・

「コレが・・・発掘されたAK」
彼は驚いていた
あのあと彼女の手助けをしようと、AK格納庫に行ったのだが
「この黒と灰色のカラーリング・・・見慣れない外装・・・ さすがに武装は今のを扱っているようだが・・・」
太古のAKは2つの種類に分けることが出来る
汎用量産型と、個人専用型
汎用量産型はコンピューターが大破していなかった例はなく、外装も今のモノと似通ったモノである
個人専用型は特注で作り上げた機体で、操作性の微妙なバグが目立つものの 特殊な外装、大破していることが多いが・・・専用武装、特殊人格コンピューター、 と今のそれとは又違った能力を持っている
太古のAKが優れているわけではないが、退屈している成金オーナーに売ればとてつもない額がつく
オークションなんか開いた日には、一夜で富豪になることだって夢ではなくなるのだ
「動くな」

かちゃ、と言う音がして、黒いAKに見入っていたファルの背中にライフルがあてがわれる
「・・・コレはまあお早いお着きで」
まだ軽口をたたける余裕があるファル
「黙れ」
「・・・」
「コレを見たからと言ってあっさり殺していいわけではない、たかが古代のAK1体だ」
「・・・」
無言のファル
「ただ・・・コイツはいろいろといわく付きでね、無傷でキミを返すわけにもいかん」
「だとすると・・・?」
ファルが訪ねる
「死ね」
ばうんっ!
一発の銃声が鳴り響いた
「・・・く、そっ」
どさっ、とその場に倒れる警備員
ドクドクと赤い何かが流れ出ている、一撃だった
「ファル!」
入口の方には実弾可動レーザーを手にしたウェンディルの姿があった
「ウェンディル・・・!!!」
駆け寄ろうとしたファルは彼女の後ろにいるモノの存在を認めた
AKの脚部・・・

「ちくしょおっ!」
ウェンディルに駆け寄り、AKが動き出す前に彼女を掴み、駆け戻ろうとするファル
どぎゃぐしゃっ!!!
遅かった
ほんの少し、遅かった
いや、もしかすると全然間に合わなかったのかもしれない
それでもウェンディルは生きている
投げられたときのかすり傷だけで済んだ
ファルは
ウェンディルの目の前にある、巨大な何かの下にいる
紅い、赤い、アカイ・・・
赤い何かが巨大な何かの下にいるファルから流れ出ていた
――即死――
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!」
何かがはじけ飛んだようにウェンディルは吼えた
そして次の瞬間
彼女はAKのコックピットにいた
そう、例の、黒いAKの・・・
そこで彼女は一人の声を聞いた
[よろしくお願いいたしますね、マスター]



ずきゃあっ!
黒いAKのフレイムソードがAKの右腕をシールドごと切り裂いた

がきょん!
右腕を強制排除するAK
「うああああぁぁぁぁっっっっ!!!」
無我夢中で黒いAKをコントロールしようとする彼女
元々パイロットとしての訓練もうけてある
成績もそう悪くはなかった
しかし機体が悪かった
微妙なバグが生じていたのだ
どぐっ!!!
コックピットを衝撃が襲う
黒いAKがAKのアームキャノンの直撃を受けたのだ
[アームキャノンが1発命中!左腕破壊!強制排除を!]
「いや!いや!いやあっ!!!!!」
彼女はまだ吼えていた
しかしそれでよかったのかもしれない
でなければ彼女もファルのところで暮らすことになっていたのだろうから・・・
「!」
彼女は突然意識を無くしたかのように崩れた
コンピューター「ティクル」が彼女を呼ぶ
[起きて!起きてください!]
ずぎょぉっ!
奇妙な音を立てて黒いAKのパーツごとにずれが生じる
AKの共鳴破壊砲である
[くそ・・・コレじゃあ手も足も出ない]
彼は嘆いていた
そして“彼女”が目を覚ました

ずばっ!
すっぱりとAKの左腕を肩口から切り裂く不気味な剣
どろどろとし、安定しておらず、黒く、よどみ、不気味な音と嫌悪感を覚える気配を発している
彼は焦っていた
一撃で右腕が飛ばされたのには驚いたが、まぐれのようだったので確実に、 黒いAKにとどめを刺すことが出来たはずだった
そう、30秒ほど前までは
「何なんだいきなり・・・あんな武装積み込んだ覚えないぞ!」
彼は狂ったようにAKを操縦した
彼は甘かった
コンピューターの声に耳を貸さなかった
いや、コンピューターの声が耳に届いてなかったのかもしれない
コンピューター「ナイト・オヴ・ナイト」
彼の声が届いていれば、もう少し長く生きられたはずだった
[彼女は・・・ナイトメア・クリーチャー・・・手を出してはいけない・・・確実に、死ぬ]

コックピットの中では彼女が黒いAKを少しのミスもなく操作しているところだった
不気味な笑みを浮かべて・・・
ティクルは悟った
彼女は彼女でないことを
彼女は、彼がまだ人間だった頃の姉
ウェンディ・リクルティス
その人だと言うことを
コンピューターに人格を移植され、姉が乗り込む機体に装着された彼は幾度となく人を殺してきた
そのうちに黒いAKはこう呼ばれるようになった
“ナイトメア”と・・・
そして姉はこう呼ばれた
“ナイトメア・クリーチャー”と・・・
[姉さん・・・来てくれたんだね・・・]
彼はつぶやいた
その声に答えるかのように彼女は黒いAKを操作し・・・
ずばあっ!
次の瞬間
黒いAKの一薙ぎが、AKの両足を断ち切っていた
どざっ!
と倒れ伏すAK
ここで勝負はついていた
しかし――
どぐじゅっ!
「悪夢の剣」はAKの頭部から深々と・・・胴体の中ほどまで切り裂いていた
そして
ずぎゃああああぁぁぁん!!!!!
AKは誘爆した
ハッケンバード財団の施設全てを巻き込むほど、大きく
外部転送装置は・・・作動しなかった



「おーい!スパナ取ってくれ」
一人の男が黒いAKを調整している
「ファルティスさん・・・あなたがやらなくてもいいんですよ、私どもの仕事ですから」
ここはファウンドフォーゲット、AKメカニックチーム「幻霧メカニック」の作業場
あれから、2年がたっていた
ハッケンバード財団は壊滅、ナイトメアはウェンディルの情報操作で幻霧メカニックへ送られてきていた
ティクルは人格システム以外大破しており、別のコンピューターに移植されることになった
ウェンディルは
「ファル・・・又あなたがやってるの?」
名前のよく似たオーナーの元で、パイロットをしていた
あれ以来“彼女”と“あの剣”は姿を現すことはなく・・・
平和な時を過ごしていた
ぽつりと、ウェンディルはファルに囁いた
「いつもと同じ日々、だね」

〜Fin〜


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