Story1 目覚めぬ少女
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「……はぁ」
高校からの帰り道、ちょうど十字路にさしかかった辺りで大きくため息を付いた。
「もう2ヶ月か……自作は無謀なのかな………」
どうやら、完全に気が滅入ってしまっているようだ。
その感情を知ってか知らずか、隣にいる少年が声をかける。
「宏之(ひろゆき)さん、もうここまでで結構です」
……知らなかったようだ。
「ん? ああ、じゃあなファウリーク」
ファウリーク、と言うのがこの少年の名前なのだろう。
身長が160センチくらいの、赤色の髪の少年。
彼は十字路で立ち止まり、右の方に歩いて行く……が、すぐに慌ただしく戻ってくる。
「……っと、宏之さんすみません、うっかりマスターからの伝言を忘れるところでした……」
「あやかから?なんだ?」
「そのまま申し上げますね、“今日7時にあたしの家の裏口に来ること!”です」
几帳面に、そこだけ口調を変えて伝える。
「あやかが……俺なんかしたかな?」
自問自答を開始する。
そのおかげで、少しは気が晴れそうだ。
(人工皮膚のベースを失敬したことか?それともヘッドギアの部品の方か?)
「あの……」
(いや、右腕の肘関節ジョイントギアーかもな……あれ高いし)
「あの……宏之さん……」
(まさか髪の染色材か?あんなものは安いし上手く誤魔化したはずだが……
でもあやかのことだからなぁ)
「………宏之さんっ!」
「どぅわあぁっっっ!!!!」
呼びかけに応じず、一人でぶつぶつ言ってた宏之はファウリークの声でようやく正気に返った。
このままファウリークが放って帰ってしまっていたら……
彼は一体どれだけの時間考え続けたのだろうか…………多少怖い物がある。
「あ、すみません、つい……」
「いや、いいんだ……用件はわかったよ」
「はい、では今度こそ失礼いたします」
そう言ってファウリークはさっき戻ってきた、右の道へと歩き始める。
彼には軽く右手を振って、又正面を向く。
とたんに、暗くなる。
過去を振り返り出す。
「冷凍保存……か、そうされたから余計に失敗するんだろうな……
でも、そうじゃなかったらユリ……ルリアは……」
過去を振り返りつつ、自分に改めて事実を納得させてゆく。
今まで何度も繰り返してきた行為、それでも事実を納得できないのだろうか。
「ユリ……何で……お前が……」
それは……その出来事は、宏之が8歳、ユリが5歳の時に起こった。
「いってきまーす」 宏之が扉を開ける。
「ユリー、早くしろよ、おいてくぞー!」
後ろを振り向き、家の中に向かって声をかける宏之。
風夜ユリ(かざや)、三つ離れた宏之の妹。
彼女に、毎日恒例になっている言葉をかける。
「ちょっと待ってよ……お兄ちゃん……」
奥から微かに声が聞こえる。
「早くしろよー」
「待ってってばぁ……」
彼の日課とも化しているこのやりとり。
宏之は小学校へ、ユリは幼稚園へ、それぞれ出かける時間。
平和な、一日の始まりの時間。
とてとてと、宏之の元にかけてくるユリ。
「さ、いこっと」
待っていた宏之を完璧に無視して、ユリは外へ出る。
「ちょっと待てって……」
宏之が、ユリの手をつかむ。
くるっと振り向く。
そして。
「べーっだ★」
去っていく。
どうも虫の居所が悪いようだ。
(続く)
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