ル・ファーラー悠久物語

遥か古の時代に生まれ  風ごとく時代を彷徨う者
時の呪縛から切り離され  深き時の呪縛に縛られし者
長き呪縛を解き放つため  長き時代を行く
真実を求め
嘆く者には幸福を 罪深き者には裁きを
悲しき運命を背負い 時代を見定める者
天と地の間に縛られし  時の旅人よ
 
――プロローグ――
 
-2073年・雪の国-

「私は絶対にあなたを許さない」
金色の長い巻毛のセマが憎々しい目でアークを見た。
その姿は悪魔に魂を渡した魔女のよう。かつて、諸国の王達を虜とした美しさはそこにはなかった。
アークが両手で持っている剣はセマに向けられている。
遺体の転がる王座の間。
部屋のほぼ中央で2人は対じしていた。
これまでの戦闘で息の荒いアークに対して、セマ余裕たっぷりの表情をしている。
「絶対に許さない。私の望みを断ち切った者をね」
セマは白く細い指でアークを指差した。
「緑鳥戦士(プランタジュナ)アーク。あなたをね」

アークを見るセマの赤い瞳のは憎しみと怒りで染まっていた。
「おやめなさい、セマ。今さら何をしても無意味です」
アークの隣にいるセナがセマにそう呼びかけた。
その言葉にセマは心を揺らすどころか、笑みを浮かべた。
「無意味?私が巻返しでも考えていると思って、セナお姉様」
その笑みにアークは寒気を覚えた。
「それに何もせずにいたセナお姉様に言われたくありませんわ」
セナは顔色を変え、押し黙った。
「セマ王妃。我ら軍にその身を預けよ。さすれば、身の安全を保証する」
後ろにいる兵士がそう進言するが、セマは「くすくす」と笑うのみ。
「セマ?」
「身の安全?この身どころか、この世にさえも未練はないわ」
「死ぬ気か?セマ妃」
セマはアークのだいぶ後ろにあるセラの遺体を見た。
「セラお姉様。私も今そこにいきますわ」
セマはゆっくりと顔を上げ、視線をアークに戻した。
「緑鳥戦士に復讐してからね」

セマはアークを睨むと静かに呪文を唱え始めた。
アークを庇うようにして立ち塞がるセナ。
「セマ、おやめなさい。アークを殺してもなんの得にもなりません」
「殺す?得?そのような事眼中にありませんわ」
再びアークを指で示す。
「私が望むのはあなたの苦しむ姿。ただそれだけ」
「セマ。まさか、あなた・・・」
「・・・時を司りし者よ 彼の者の時を永遠に止めよ
時の呪縛から切り離し 永遠と言う名の時の呪縛に縛り付けよ」
「やめて、セマ!!」
2人の声が部屋に響いた。
アークは金縛りにあったかのように全く動けなかった。
「彼の者緑鳥戦士アークを」
セマの指先からアークの身体の中へと何かが入っていくような感じがした。
そして全身の力がスウッと抜け、手の中から剣が乾いた音をたてながら落ちた。
後から来る気持ち悪さ。
アークは両膝を床についた。
「アーク」
「アーク様」
セナやモーヴィルの不安の声が聞こえたが、アークには顔を上げて確かめる余裕すらなかった。

「緑鳥戦士アークよ」
凛とした声が響いた。
「お前の中にある<後悔>の心。その心と共に<永遠の孤独>を味わうかいい」
その言葉が矢のようにアークに突き刺さる。
それは呪の言葉。
アークを縛る言葉。
「その苦しみを永遠にその身で受けるがいい」
セマはそう言い残すと、自らの身体を紅蓮の炎で包んだ。
「セマー!!」
セナの声が遠くで聞こえた。
アークは紅蓮の炎を見ながら、モーヴィルの腕の中に倒れた。
「アーク様」
モーヴィルの心配の声とセナの泣き声がどこからか聞こえた。
セマを包む紅蓮の炎。
それは1つの時代の終りを告げる、終結の炎だった。

ル・ファーラ歴2073年。
かつて大陸全土を支配していた帝国の衰退により始まった戦乱の世。
その戦乱は1人の英雄と悪女の死、1人の時を止められた戦士の手によって終りを告げた。
<神の力>を手にいれ、戦乱終期、大陸の支配権を持っていた国は滅亡し、
別の国がその支配権を手に入れた。
それは血で血を拭う時代。
その名の通り百年続いた-「百年戦争」の終りであった。


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