ル・ファーラー悠久物語

3.予言と運命、そして叶わぬ願いへ戻る

――4.運命の星の下に生まれし者――
 
歌声が響いた。
昔、幼い頃に聞いた吟遊詩人の歌声。
「昔、戦乱の時代。
 大地が赤く染まり、悲劇と混沌溢れし時、
 1人の剣士現れん。
 平和を象徴せし緑鳥を従え、
 意志を持つ剣を持つその者は、
 人々を平和へと導き、
 幸福を与えたと言う。
 人々はその者を緑鳥戦士と呼び称え、
 緑鳥伝説として語り継いだ。
 戦乱の世から、
 平和へと導く者として・・・」
―次の緑鳥戦士となる者―。
私はこの運命の星の下生まれてきた。
次の緑鳥戦士となる者として。
この戦乱を終わらせる者として。
セリアの予言の下に----。

「アーク。アークってば」
アークが静かに目を開けると、目の前に明るい笑顔を浮かべたセラの笑顔があった。
「おはよう、アーク」
「セラ・・・」
アークはゆっくりと上半身を起こした。
その間セラは、アークの隣に優雅に腰を下ろした。
木の葉がざわめき、草が流れる。
アークの瞳に新緑が映る。
「昼間からこんな所でお昼寝なんて、いい御身分ね」
セラはにこにこしながら言うから、皮肉かどうかは表情から全く読み取れない。
「アーク」
セラが真剣な眼差しでアークを見た。
「以前あたしの所に、雪の国の反乱軍の人が来たの覚えている?」
「ああっ。セラを雪の国の新しき女王にしたいと言って来た奴らだな」
セラは黙って首を縦に振った。
セラの様子がいつもと違うの気が付いたアークは、心配そうに尋ねた。
「また、そいつ等が来たのか?」
今度は横に振る。
「そうじゃないの」
セラは深緑の瞳で眼下に見える街を見下ろした。
「アーク、あたしね、立ち上がってみようと思うの」
「ちょっと、待て!!」
アークはセラの発言に驚き、思わず立ち上がった。
「セラ。自分が何を言っているのか解っているのか?」
「解っている。それがセマを敵に回す事だって」
セラの瞳には強く輝く意志があった。
アークはそれを見て諦めたようにため息を付いた。
(普段、マイペースでのんびりしているくせにこういう所は頑固なんだから・・・)
「セラ。本当にそれでいいのか?父親が違うとは言え、セマはお前の妹だぞ」
セラはにっこりと笑うと、
「ありがとう、アーク。心配してくれて」
と、言いながら立ち上がった。
「確かにあたしが立ち上がるって事は、雪の国を、義父様やセマを敵に回すこと。
もしかしたら、殺してしまうかも知れない」
セラは高台の先に立って、街を見下ろした。
白亜の城を中心に円状に広がる街が遠くに見えた。
そのさらに遠くには白い雪を被った山脈も見えている。
「でも、ずっと考えていた。自分がこの大陸のため、 いいえ、周りで支えてくれる人たちのため何ができるかを」
「セラ・・・」
アークはセラの後ろ姿を見つめた。

「この国、星の国はホント平和よ」
星の国はこの世界最大の共和国家。この戦乱の時代でも大きな戦もなく過ごしている。
その背景には人間以外の異種族や龍族などの魔物達と上手く共存していることがあるからだろう。
下手に攻め込めば、龍騎兵の攻撃を受け、多大な被害を受けるのが目に見えている。
「でも、大陸中から戦火を逃れようと、この国にたくさんの難民がやって来る・・・」
確かに平和な国だ。だから、そうした物たちが毎日何千とやって来る。
そのため、経済や食糧問題、難民と他種族とのトラブルが絶えない。
龍族であり自警団でもある、2人の友人は毎日忙しく走り回っている。
「このままじゃ、いけないと思うの。この大陸が平和にならないと、
 この国でお世話になっている人たちも平和にならないと思うの」
(同じ姉妹でも違うんだな)
アークはふと、セラの姉妹と自分の妹の事を思い出した。
アークの故郷には、アークと腹違いの兄妹がいる。
特に妹は、いつも自分を「姉様」と呼び、犬やネコの様にまとわりついていた。
アークの母が早くに亡くなり、妹の母である王妃で下で育ったこともあるだろう。
妹はいつもアークの側で笑っていた。
でも、セラは違っていた。
セラは三姉妹の次女。上にセナ、下にセマと言う姉妹がいる。
セラ姉妹も、アークと同様、幼くして母親を亡くしている。
しかし、その母親が残した物によって、運命を大きく変えた。

セラ姉妹の母・セリアは<神の力>を持ち、奇跡を起こした謎の女性だった。
まだ見ぬ明日を見、大地に恵みを与え、明日かもしれぬ者を癒した。 その力を各国の王が手に入れんと争い、戦は激しさを増していった。 彼女自身、幾度か人の手に渡り、雪の国に落ちていった。 それにより、雪の国はその領土を一気に拡大して行った。
けれど、セリアは3人目の娘・セマを生むとすぐにこの世を去った。
ある一つの予言を遺して・・・。
「私が遺して行く3人の娘たちのうち1人は、この大陸を照らし希望をもたらす陽の光となり、 1人は大陸を包み絶望をもたらす夜の闇となるでしょう。 そして、もう1人は地母神のごとく、この世界を見守り続ける者となるでしょう」
後に言う「3つの予言」である。
全員父親違い、でも<神の力>持つかもしれぬ娘達。
けれど、セラはその力を一切受け継がなかった。
これを<闇>と判断した雪の国国王は、セラが12の時に小国に嫁がせる。 周囲の目からも明らかな厄介払いであった。
 セラはしばし、その国で幸せな時を過ごすが、7年後には国を雪の国に滅ぼされ、
行き場所を失い、この地へやって来たのだった。
それ故に、アークや友人たちの兄弟・家族話しをする時、決まって「いい家族よね」と呟くのだった。
(なのに・・・)
アークは拳を強く握り締めた。
<神の力>を持ちながら、その力を笠に雪の国の影の支配者となり、悪政を行うセマ。
それを言葉で表すなら、「残虐非道」。逆らう者、弱い物は容赦なく切り捨てる。
それが、雪の国国王が<光>と信じたセマの姿であった。
そして、そんなセマを倒すため、切り捨てられた者達がセラの下へ集まりつつあったのだ。

アークにはそれが許せなかった。
姉妹との幸せを心の底から願っている者に、妹を殺させることが。
確かに、今この大陸は雪の国が支配していると言っても過言ではない。
その支配の手は、この星の国を中心とした東方諸国にも確実に伸びて来ている。
この星の国でさえ、雪の国とぶつかれば、大被害が出るのが目に見えている。
セラの言い分も分からなくはない。
でも、心のどこかでアークは許せないものがあった。
「アーク。あたしは大丈夫」
セラは振り返って、アークに笑顔を見せた。
「あたしにはたくさんの仲間がいるもの。
 それに、千年前、戦乱から人々を平和へと導いた緑鳥戦士の二代目がいるもの」
「一応そうだが、先代のようにはいかんぞ」
「大丈夫。アークは強いもの」
「それとこれとは違うと思うが」
セラは「くすくす」と笑った。
アークは諦めたかのようにため息を付いた。
「それに希望の朝は必ずやって来るもの」
「希望の朝か・・・」


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