「・・・ふう」
街道ぞいを歩きながら、私は重いため息をついた
「どうしたのですか? グレイさん」
・・・ルナ、ルナ・ライザラードという私と共に歩いている16歳の子が声をかけてきた
「あ・・・なんでもないよ」
「そうですか、なら、いいのですが」
・・・ことの起こりは3日前にさかのぼる
私が神からの啓示を受けて、ムーンという村に旅立ったのが3日前、
そして村に着いたのが2日前の夜、そこではルナ・ライザラード・・・
私が探す子とディルス・フォーゲスティアの結婚式の前夜と言うこともあり、にぎわっていた
心が痛むのを押さえながらルナを誘拐・・・言い方が悪いな、”つれてきた”わけなのだが・・・
どのようにしたかを説明するのは勘弁してもらいたい、思い出したくないのだ
そして、まだ、私は彼女に本当のこと・・・神からの啓示を説明していない
「ルナ、話があるのだが・・・」
私はついに、彼女に真実を伝えることを心に決めた
「なんでしようか?」
「実は・・・」
と、私は神からの啓示を彼女に語った
「・・・お話はわかりました、つまり、コレ」
といって、彼女は髪を掻き上げ、自分の首筋を指さす
「マークを貫かなければいけないんですね」
首筋に、ルナ・シードのマークが見える
もともと美しい満月をかたどっていたのだろうが、今は、少し黒ずんで見える
「・・・そうだ」
声にならない声をあげ、わたしは言う
「わかりました、では、この場で」
といって目をつぶる彼女、ちょっ、ちょっと待て!
「ちょっ・・・ちょっと待て、せめて私にも何かさせてくれ、
幸せを見ないまま死ぬのはあまりにもこく・・・」
早口でまくし立てる私
「幸せ? ディルスにあわせてくれるのですか?」
あ・・・結婚式の前夜につれてきたのだった・・・
心が痛むな・・・
「・・・できる範囲、そうだな、おいしい物ではっっ?!」
言って恥ずかしくなってきた・・・
「くすくすくすくす・・・」
しかし、彼女はやっと、笑みを見せてくれた
「じゃあ、近くの町、ドラグーンにでも行こうか?」
「くすくす・・・ええ・・・くすくす」
しかし・・・ドラグーンならば今日中につくだろう、宿を取ったとしても・・・
明日、殺さなくてはならないのか・・・
どうも、イヤな日になりそうだ
私たちが町に着いたのは、予想通り、夜になってからだった
夜もふけているために、出歩いている者はいない
しかし・・・
「宿をとろうか」
「そうですね」
私たちはいくつかの宿をめぐり、龍尾亭という宿に入っていった
「いらっしゃいませ」
奥にいる主人が声をかけてきた
「一泊したいのだが・・・」
「はいはい、一泊ですね? ・・・お二人で?」
と、いぶかしげな顔をする、ま、当然の反応か・・・
「そうだ」
「・・・お二人で2500シェルです」
・・・ちょっと高いな
「2500シェルだな」
と、言って2500シェルを置く
「はい、コレが33号室と34号室の鍵です」
「どうも・・」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
といい、ルナはドアを閉める
「ふう・・・」
自然と出るため息
「仕方がないのか・・・」
とぼやきつつ、私の部屋に移動する
「明日は・・・イヤだな」
とぼやきつつ、私は眠りにつく
どのくらいの時がたっただろうか・・・
かすかな気配を感じ、私は目を開けた
緊張していて深い眠りにつけなかったのが、功をそうしたようだ
「何者だ」
私は何者かに声をかける
「・・・暗殺者たる者、依頼人以外に、名を教えるわけにはいかん」
アサッシン?!
「気がすすまない仕事だが・・・仕方ない」
「ちっ!」
殺気のする方を、ラゼェルヴァルクで一気に切り裂く!!
「・・・ライト(光源)」
「ぐあっっっ?!」
めくらましとは・・・
「・・・・・」
私の後ろでかすかに聞こえる呪文の詠唱・・・させるかっっっ!!
「でやっっ!!」
振り向きざまに一刀両断!!・・・が
手応えが・・・ない!
目が見えないのがたたったか、私の剣は宙を切り裂いていたようだ・・・
「フリーズ・ローディ(凍刻)・・・」
「な・・・??!!」
「・・・さん?! グレイさんっっ?!」
はっっ・・・
「ル・・・ルナ」
どうやら私は意識を失っていたようだ・・・
!!! ラゼェルヴァルクはっ!?
「・・・ルナ、私は剣を持っていなかったか?」
知らないと答えればおそらく・・・
「いいえ、知りません」
やはり・・・あの暗殺者が持ち帰ったのだろう・・・
こそどろのようなまねをするっ・・・
「ルナ、聖剣が奪われた」
押し殺すような声で、私は言う
「!!!」
「仕方がない、無駄だろうが、主人に怪しい人影がなかったか、聞いてみよう」
「そう・・・ですね」
「なっっっっ??!!」
1階に下りるとそこは・・・
「う・・・」
私は顔をしかめた、そこには、主人と、おそらくここの泊まり客であっただろう者の、
死体が、あちこちに散らばっていた・・・
一人は首を切られ、一人は体が妙な具合にねじれ・・・
「っ・・・」
ルナが意志をなくし、寄りかかってきた
無理もない、私でさえコレはきついのに・・・
「・・・あいつか」
おそらく、あの暗殺者であろう・・・
私はルナを抱きかかえ、町の外まで逃げてきた
あの状態で誰かが来たら、犯人扱いされても文句が言えない
「よっ・・と」
私はルナを木陰に置き、一休みする
「・・・今度は聖剣探しか」
まったく・・・どうなっているんだ?!
そして私は町を出た、行方の知らぬ聖剣を探し・・・
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