「ほえー」
アリスが思わずため息を漏らす。
分からないでもない。目の前には一面に広がる大きな渓谷が有るからだ。
風の音が獣の叫び声のように聞こえるほど、風が強い。
このエルピスの渓谷は、山が大きくて長いが、幅はそれほどでもないので、
人が簡単にわたれそうな小川と、周りに大きな木があるだけだ。
「いいの?こんなところ入ってきて。さっき立ち入り禁止の看板が・・・」
「いいんです。この際。神魔族に見つからないうちに早く見つけなくてはならないんですから。」
俺達がここに来る途中に、通りすがりの人に聞いたところ、
エルピスの剣は今はどこにあるのかは分からないらしい。
だから俺達は一から探さなければならないのだ。
「しっかし、すごいねえ。こんな大きな渓谷なんて、そう滅多にないんじゃない?」
渓谷が有るにはあるが、どこかに通じそうな穴は一つもない。
「まあ、そんな簡単に見つかるはずはないんですから、一から探しましょう。」
そういって、リリーは草を持ち上げる。
「しゃあねぇなぁ。」
ケインはそういって、小さな小川を渡り、対岸にわたった。そして、木に隠れてみえなくなった。
「俺達も探そう。」
アリスに言い、俺は岩を退けたりしていた。
約20分位探したときであった。
「全然ねえじゃん。どうなってんだよ。」
そう、ケインが言ったその時であった。
「どわ―――――」
ケインの怪しい悲鳴が聞こえてきた。
俺達は慌てて、ケインがいたと思われる当たりに集まった。
「ど、どうしたんだよ。」
俺達はケインを探したが、どこにもいない。
「とにかく探そうよ。」
アリスがそういって、斜めになっている崖に触ったときだ。
「うわっ。」
一瞬にしてアリスが消えた。
「ど、どういうことだよ。」
「この壁がどこかにつながっている事は確かです。手がかりはないんですから、行きましょう。」
リリーが壁をさわり、消えた。
「やんなくちゃいけないんか?しょうがない。やるか。」
俺はそう独り言を言い、壁を触る。
そして一瞬にして、俺の視界が変わった。
「何なんだよこれは!」
長く伸びている廊下のようなものが有る。かなり薄暗いが目の前にリリーがいることだけは分かる。
「リーセ、これ見てみろよ。」
そういって、ケインは壁に触る。壁は土作りになっていて、土がパラパラ落ちてきた。
ヴィィィィィン
そう機械が稼動するような音がした。
そして、俺は一瞬、目を疑った。
向かって左側の壁に青白く光る文字らしき物が現れたからだ。
「何よこれ・・・」
「わかんねえ。文字らしいってこと以外はな。」
「ここは前の世界の遺跡のようですから、私たちには読めませんね。」
リリーはその文字に触る。
「見るだけでもかなりの長さがありそうですね。」
「でもさ、こんなのがあったなんて、誰も言っていなかったよ。
壁に触らなかったなんてことは無いだろうし。」
「この文字、壁に掘られた様ではなさそうですね。ほら、削られて盛り上がっていませんし。」
俺は壁に近寄り文字に触る。
「そうだな。何か特殊な方法でかかれたのかも。」
そう俺は言い。文字に手を当てながら、瞼を閉じた。
・・・何か、妙な感じがする。
この前の様ないやな感じではなくて、
心地よい、母さんに抱かれているような・・・
俺はいま、目の前に美しき人を見た。
密かに笑って、ぼそりといった。
「『蒼き瞳のもの、紅き瞳のものと再会す。
その時、運命の歯車は再び回りだし、
4の水の太陽は、
消滅する。
瞳閉じて思うは 母なるもの。
同じく思うは 分けられし黒きもの。
黒きものは 野望満ち、
全て我が物とせん。
第一の太陽
4の虎の太陽の時代
虎に食われ貪り食われる。
虎、全てを恨みし。
太陽滅び、676年の歴史の幕とじる。
第二の太陽
4の風の太陽の時代
風にさらわれ人滅ぶ。
黒きもの、風おこし、
太陽消え、364年の歴史の幕とじる。
第三の太陽
4の雨の太陽の時代
ケツァルコアトル、
火の雨降らせ、再会誓う。
太陽燃え、312年の歴史の幕とじる。
第四の太陽
4の水の太陽
ケツァルコアトル、
いかにせん。
黒きもの、テスカポリトカ。
悪の象徴。
二番目の兄。
白きもの、ケツァルコアトル。
善の象徴。
三番目の弟。
現世のからだに眠る力、今よみがえらせ、
目的、遂げるべし。』」
「リ、リーセ?」
「え?」
俺は吃驚し、アリスの方を向く。
「なに、言ってんの?」
「今、綺麗な人が見えた。金とも銀とも言えない髪をしていた・・・」
「??」
「多分それは、この世界を最初に作ったカオスでしょう。
別名、オメラタトルともいわれています。
そうしたら、この言葉はカオスからのメッセ−ジでしょう。」
リリーは俺達の方を見て、廊下の先をさす。
「さっきのリーセさんの様子から考えて、この先にエルピスの剣があることは間違いなさそうです。
早く行きましょう。」
そういって、リリーは駆け出す。
「お、おう。」
ケインはいまいち事情が飲み込めていない様子で言った。
「さっき言ってたのは、多分これまでのことでしょう。
今までの世界の話だとおもいますよ。今は4番目の世界ですからね。」
そう、リリーは走りながら言う。
「でも、ケツァルコアトルとかって何?」
アリスは走りながら言う。
「多分、リーセさんのことでしょう。というより、テバジャのことでしょうね。
現世のからだともいってましたから、ケツァルコアトルというのはテバジャの力のことかもしれませんね。」
「人がテバジャでその人の力の事がケツァルコアトル・・・」
「まあ、さっきの言い方から判断すると、どっちともいえませんけど。」
「んなあ、テスカポリトカ?って何だと思う?」
ケインは話す。
「それは多分・・・」
「ラムザのことだろ。考えるとあの人しかいない。でもさ、テスカポリトカにも条件が必要なのかな?」
「さあ?どうでしょうね。
でも、私が分かれ際に聞いたところでは、まだ条件すら分かっていないようでした。
リーセさん達の瞳を欲しがっていましたし。」
「少なくとも分かるのはそんだけって言う事だな」
ケインが言った途端、目の前が真っ白になった。
「な、何?」
目の前に広がっているのは丸い広場だった。
中央に泉らしき物があり、その又中央に台があり、剣が刺さっている。
「ここから観るだけでかなりの広さなのに、剣はあんなに大きく見えるぜ」
ケインはそういって泉の端に立とうとした。
だが・・・
バンッ
「な、なんだ?」
ケインは見えない壁にはじかれてしまった。
「リーセしか、入れないって事かな?」
「そうですね、誰にも触れないように、誰かがかけたんでしょう。」
俺は、泉に近寄るケインのあたった壁に触ろうとしたが、指が通り抜けてしまった。
「やっぱり!」
アリスがそう言うのを聞きながら、俺は泉に足を入れる。
深さはくるぶし程度なので、たいしたことはない。
剣は身近で見ると、かなりの大きさがある。きっと、俺の背ぐらいだろう。
俺は階段を上り、剣の柄を持つ。
そして、ぬこうとしたその時だった。
カッ!!
俺の視界がフラッシュバックし、一瞬にして白くなっていった。
そして、オルゴール調の音楽が聞こえてきた。
目の前に、靄のかかった草原が見える。
そして、白い衣を着た長い髪をした女とも男とも言えない人が座っていた。
「・・・リーセ・・・」
目の前にいる人が言う。
「・・・リーセですね。よく、ここまで来てくれました・・・」
「あなたは、オメラタトルさん、ですか?」
「さんなんて、つけないでください。一応あなたの父なのですから。」
「俺、いまいち事情が分からないんです。根本的なところから。
何でテバジャがあるのか。そして、何で俺がテバジャなのかすらも。」
「フフ・・・そうですね、あなたには話しておいた方がいいかもしれません。今まで、あった事を・・・」
目の前にスクリーンが現れる。
「この世界の秩序などを造ったのは実は貴方達4兄弟なのです。」
「4、兄弟・・・?」
「そう。上に赤いテスカポリトカ、二番目に黒いテスカポリトカ。
やさしい人でした。そして三番目に貴方、ケツァクアトル。勇敢な人でした。
そして、下にもう一人います。」
スクリーンに宇宙が現れる。
「最初の世界を統治したのは黒いテスカポリトカ。
でも、テスカポリトカがあまりにも暴君だったので、
側近をしていたケツァクアトルは人々を案じ、兄であるテスカポリトカを海に落としました。
でも、テスカポリトカは大虎になって現れました。
そして人々を食い尽くしてしまったのです。
彼が暴君になったのは、理由がありました。
人々がお互いの事など気にしなくなり、要するに自己中心的になっていって、世界が荒れてしまったのです。
彼は世界が荒れる事を嫌いました。元が優しい子でしたから・・・」
オメラタトルさんは、悲しそうな顔をし、続きを話しだした。
「そしてここからテスカポリトカの執念が始まったのです。」
スクリーンに次の世界が映し出される。
「次の世界がケツァクアトルの支配する綺麗な国。すべて平和な世界でした。でも・・・」
「テスカポリトカか・・・」
「そうです。分かっているとは思いますが初めの世界のテスカポリトカやケツァクアトル以外は
全て生まり変わりです。
テバジャというのはケツァクアトルの力を受け継いだ人のことです。
結局一番目の世界を滅ぼしたのも、二番目も世界を破滅させたのはケツァクアトルです。
一番目の世界のときは人々を食われたときの悲しさで。
二番目のときは愚かな人間の行いがケツァクアトルであるテバジャを破壊という道を歩ませてしまったんです。
そして人間の存在をなくしてしまった。
三番目の世界では神魔だけの世界だったので、争いが多く、
戦いを嫌った二代目テバジャは、人間を生み、世界の平和を得ようとしたのです。
テスカポリトカはこの世が乱れたとき、しびれを切らして世界を滅ぼそうとします。
そして、この世界の秩序ごと破壊しようとします。
テバジャはテスカポリトカが世界の秩序を滅ぼそうというときに現れ、最善の道で、目的を果たすのです。」
「目的・・・?」
「そう。初代ケツァクアトルは世界を平和のために世界の秩序を直す。
二代目はまた平和に暮らすために世界の秩序を直す。
三代目は世界の均等を生むため、戦いをなくすために世界の秩序を直す。
そして、貴方の役目は・・・」
「神魔をなくす事。」
「そうです。」
「俺に世界を滅ぼせって言うのかよ!!何で俺にそんな権利があるんだよ!!
人の命はその人のものじゃねえか!」
俺はオメラタトルの胸座をつかむ。
「違います!!再生するんです!!テスカポリトカはこの世を全て消去します。
貴方は違い、世界の倫理などを変えるのです。
そこに住んでいた人々は前の世界の記憶などは失いますが、死にはしないんです。」
「世界を破滅するんじゃなくて、倫理を直す?」
<んじゃ、リリーの言ってた事は本当だったのか・・・>
俺は手を放す。
「判っていただけましたか?」
「ああ。」
「テバジャの条件はもちろん神・魔の力と、蒼い瞳。そしてこのエルピスの剣。」
そういって、オメラタトルはかなりの長剣を出す。
金と銀に輝く剣。
「見た目はかなり重そうですが実際はかなり軽いですよ。
詳しく言うとこの剣は人間、魔、神そのものなのです。
だから貴方と同じ物質で構成されているという事ですね。」
俺にその剣を渡す。確かにかなり軽い。短剣のようだ。
「相棒もいるんでしょう?赤い瞳で。たしか、かなりの力が必要らしいって・・・」
こくんとオメラタトルはうなずく。
「そうです。貴方の一番近くにいて、支えている人・・・アリスさんです。」
「力って・・・今の力じゃいけないのか?」
「・・・世界を破滅させる力というレベルじゃないですし・・・」
「そうは言っても、あれ以上レベルあげられないぜ・・・」
さっきからあったスクリーンに綺麗な森が映る。
「このエルピスの渓谷の近くにディアンズの森というのが有るんです。
通称妖精の森というのですが、そこに新たなマグナーシュをつけられるんですが、
そこに行ってみてください。
もしかしたら違う技を身につけられるかもしれません。」
「そうか・・・じゃあ行ってみるかな。」
「・・・ありがとう・・・どうか・・・あの子の悲しき暴走をとめて・・・」
視界がすべてぼやけ、オルゴールのおとが遠ざかっている。
そうして、俺は目覚めた。
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