幻想大陸聖伝 テバジャ

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――第十一章――
想いを残して
 
リーセは目を覚ました。
(他の人には瞬きぐらいの長さだったようだな。)
リーセの手に握られている剣。
リーセはそのまま剣を抜き取り、構える。
「やっぱりでけえなぁ…」
リーセの身長までとはいかないが、ゆうに160センチはあるだろう。
「ん〜でもさ、持ち運び大変じゃねえか?」
「そう、ですよねぇ…」
ケインの疑問にリリーが頷く。
リーセは剣をぶらぶらとまわしてみる。
「やっぱり軽いな…」
「やっぱりってどういうことです?」
リリーが俺に聞く。俺はさっきあった事を話す。
「へえ、リーセ、カオスと話したんだ!」
「すげ〜なぁ、おい!」
ケインはリーセの肩を思いっきり叩く。
「いってぇ〜」
リーセが痛がるのも気にせず、ケインは続ける。
「ってことは、この剣ってリーセの分身なわけだろ?」
コクンとリーセは頷く。
確かにそう言っていたはずだ。
「いくら強い力が込められてるってもさ、邪魔、だよな。」
リーセが言った途端に。
シュンッ
剣がリーセの手から消えた。
「……?」
リーセ達は一瞬言葉を失った。
いくらさっきまで剣を握っていた手を再び握っても、ただむなしく一人で手を握っているだけだ。
「どこ…に、消えた?」
リーセは体中をパンパンと叩きまくる。
けれど、剣は何処にもなかった。
「何処なんだよ!いいかげん出てこい!!」
そういった途端、リーセの右手に剣が現れる。
「……へ?」
ケインが一言をもらす。
「まさか……」
リリーがつぶやく。
「リーセさん、『今は要らない』と想ってください。」
「え?」
リーセは剣を逆手に持って想う。
『剣よ、今はその力は要らない!』
バシュンッ
剣はリーセの手の中から消える。
「そういう事なのか。」
リーセは言う。
「どういう事なんだ?」
ケインがリーセに聞く。

「要するにだな、こいつは俺の分身ってわけじゃなくて、俺自身なんだよ。 だから俺が要らないと思えば、剣は俺の意志通りになくなるわけさ。 この剣は俺自身なわけだから俺以外の人にはただの剣でしかない。 だから神族も魔族も俺達を襲って奪おうとしなかったんだろう。」
ほお〜とケインは頷く。
リーセは再び剣を手に出した。

おそらくこの地が今の世界を創った場所なのだろう。
リーセは深呼吸をして、地面を見る。
石造りの地面に一つ光り輝くものがあった。
リーセはしゃがみ、その光り輝くものを手に取った。
「指輪?」
よく見てみると、中に何か掘ってあった。
『SAPPHIRE・RUBY』(サファイア・ルビー)
そう掘ってある。
(サファイア・ルビーといえば、確か今の世界を創った人たちだ。)
リーセは思いを受け継ぐとの思いも込めて、
指輪をはめた。
(安心してください。貴方達の想いは俺が受け継ぎます。神族、魔族は俺が滅ぼします。)
そう、念じた。

「なあ、ディアンズの森って知ってる?そこでアリスのパワーアップができるらしいんだ。」
「ディアンズの森ですか?ああ、エルフの大勢住んでいる森の事ですね。」
リリーが思い出したように言う。
「エル…フ?」
ケインが何のことかと言う。
「あっそうでしたね。貴方達は知らないんですね。 エルフとは気高き一族で、神族に使えているエルフをハイエルフ。 魔族に使えているエルフをダークエルフと言うんですよ。魔法がとてもうまくて、きしゃなのです。 寿命は神魔族ほどとはいいませんが、人間以上ですよ。 そのディアンズの森には珍しくハイエルフとダークエルフの両族が暮らしているのです。 まあ、仲は悪いですけどね。 あとそこのエルフたちは他のところに住んでいるエルフよりも力が強いってうわさです。」
リーセ達は出口に向かって歩き出す。
「そういう事になると、ディアンズのエルフはその魔法力アップの力を得ていたわけなんですね。 だからあのエルフたちはあそこから逃げなかったんだ。」
「でもそうすると、近づくの大変そうだな。」
「そう、ですね。」
戦争を行っている部族は神経を尖らしているからだ。
「まあ、行ってみるしかないんじゃないのかな。」
アリスがそう窘めて、いう。
「でも、一度街に戻っていいか?いろいろ準備あるから。」
と、ケインが言う。
ケインがリーセに目配せした。
「いいんじゃねえの?そんな急ぎたいわけじゃないし。」
リーセは出口に立って、言う。
「ねえねえ、自由行動じゃ駄目?わたしもう少しここ見てたい。」
アリスがそう言い、ケインが賛成する。
「OK!そうしようぜ!俺も探し物あるしよ!」
『さっきから変だと思っていたんだけど・・・アリスはずっと下を向いたまんまだ。 でも、俺にはどうにもできない。俺が言うと悪化しちゃうかもしれない。』
「そうだな……」
リーセも一応賛成したところで、アリスは歩いていく。
リーセはケインに縋るような目で、言う。
「ケイン・・・」
「・・・」
ケインはそんなリーセの目も、気にしないようにそっぽを向いて、歩いて行った。
「じゃあ俺は早く戻って寝るとするかな…」
そう、リーセが言ったその時だった。
がしっ
リリーがリーセの手をつかんだ。
そして真剣な顔で、こういった。
「ちょっと、お話があります。よろしいですか…?」

アリスは他の人からかなり離れた後、真剣な顔になった。
そうして、近くにおおきな岩を見つけ、抱き着くように倒れた。
ドン!
ドンドンドン!!
アリスは何回も岩に向かって右手を打ち付ける。
「くっ」
アリスの素の手は、血でにじみ、紅く染まる。
同じように岩も紅く染まっていく。
「ちくしょう!」
アリスは情けない自分に向かって、文句を言った。
リーセがカオスの夢を見ているとき、アリスはまた別の夢を見ていた。
「私とした事が!あんな、夢を…!」
さらに、腕を叩き付ける。
「こんな手なんか!!」
ガシッ
右手を、誰かがつかむ。
アリスは振り向き、その人物に驚く。
「ケイン!」

「何で、こんなことをしたんだ?」
ケインはアリスに聞く。
二人はさっきの岩の上に座る。
アリスはさっきの怪我をした手を触る。
ケインはアリスの右手を自分の服の布で巻くように押さえたのだ。
「・・・・・・・・・」
アリスは何も言わない。
「じゃあ、何で、貴方はあんなところに?」
「お前が気になったから。」
ケインは即座に答える。
「別におまえの事が好きなわけじゃねえ。ただ、リーセに迷惑かけてもらっちゃ困るんでね。」
くす・・・
アリスは微笑する。
「貴方は、人生全てリーセ中心に回っているのね。」
ケインはむっとしていう。
「悪いか。物心ついたときから側にいた奴なもんでね。」
ケインは後ろに手を置き、体重をかける。
「俺にとってあいつが全てであり、人生そのものさ。 あいつのいなかったここ六年、俺にとってどんなに辛かったか分かるか?」
「分かるわけ、無いじゃない。」
「そうだよな。お前は好きな奴と別れた時なんてなかったんだろうからな。」
「・・・・・・そう、それが問題なのよ。」
アリスは足をぎゅっと抱き、悩ましい顔をした。
「え?」
アリスは立ち上がる。
「貴方は知らないのね。私たちが昔出会ってた事に。」
アリスはキッとケインを睨む。

「あの人と出会って約12年。その内あの人と別れていたときは半分の6年。 ずっとあの人を思ってたのよ。そして、やっと思いはじめて6年目で再会した。 6年間、一緒にいて、あの人の成長を見ていたわ。でも、いきなり大きな存在になってしまった。 世界の運命を握っているという世界にとって大きな、世界中の人々にとって、存在になってしまった。 私では、あの人にふさわしくないかもしれない。そんな想いが常に私の中にあるの。 常に私の中にある大きな不安。それは妻となった今でも変わらないのよ。 そんな不安が、あんな夢を生んだのかもしれないわね・・・」
「夢・・・?」
アリスはそのケインの質問に答えようとせず、笑っていった。
「貴方は私の生まれはリーセから聞いているのかしら? 私の生まれは地元では有数の貴族で、何不自由ない暮らしだったの。」
「なんでそんな奴が冒険者なんかしてるんだよ。」
アリスはまた、岩に座る。
「そうね。普通はね。私はね、上に姉が一人いたの。でもその姉は・・・」
「姉は・・・?」
アリスは俯く。
「駆け落ちしたの・・・」
ケインは吃驚して、まさかとつぶやく。
「本当よ。私が6歳、姉が16歳。何でもできる姉だったけど、少し世間知らずなところがあったわね。 だから、たまたま泊りにきた冒険者に恋をして、その人について家を出て行ってしまった。」
アリスはため息をもらす。
「そこから始まったわ。私の英才教育は。 一日何時間もの勉強、魔法の練習。勉強の方は何とかなったけど、魔法はどうにもならなかった。 才能がなかったのね。そんな時、父が急死して、すぐに義父がきたわ。 私はその義父と仲がわるかったのよ。母とまで喧嘩をして、泣いているときにリーセとであったの。 リーセは私の涙を拭ってくれたわ。誰もやってくれなかったのに。 そしてマグナーシュの力を手に入れた。 魔法の力を手に入れた事で家でももてはやされて、いい気分だったけど、常に私はリーセの事を想ってた。 結婚しようという言葉を。そして12歳の時、痺れを切らして、リーセを探すたびに出た。 今思うと馬鹿らしいわよ。何億の中から一人を探し出すんだもの。途方も無い旅だったわ。 そして、旅をして、人を探すには冒険者になるといいと聞いて、冒険者試験を受けようとしたとき、リーセと再会した。」

「・・・・・・」
「私はあの人の事を六年間、ずっと思ってきた。私にとってリーセは12年間の全て。 あの人だけを想い、幻を描いて生きてきたわ。その人が急に大きくなって・・・」
「戸惑っているわけか。」
「ええ。私はずっとあの人のとなりにいていいはずだった。でもあの人はすごい力を手に入れた。 それに反して私は普通のマグナーシュの力しかない。だから私は、不釣り合いなんじゃないかな。」
アリスは石を拾い、投げる。
(決着はあの時についていたはずだった。あの神殿のときに。 でも、さっきのリーセの話を聞いて、再び、不安になってきた。こんな私でいいのか。)
「・・・独りで行けば?」
「え?」
ケインはつぶやくように言った。
「ディアンズの森にさ、独りで行って、自分の不安を取り除いてみたら。 あんたの不安を取り除く事は、リーセにもできない。俺にしてもな。自分での決着だ。 だから余計な外野が入らないように独りで行けばいいじゃねえか。 それに、たまにはリーセ抜きの方が、気も楽だろ?」
「いいの?」
アリスはケインに近寄る。
「リーセには俺がナントでもいっておくさ。後で追いかけるかもしれないけど、まあそれはそれでいいだろ。」
アリスの顔が紅く染まった。
「ありがと。」
アリスは座っているケインに覆い被さるように抱き着く。
「馬鹿、だからお前のためじゃなくって、リーセの・・・」
アリスはケインを離し、微笑む。
「分かってる。でも・・・」
「・・しゃあねえな。行ってこい!」
ケインはアリスを立たせ、お尻を叩く。
「きゃ!」
ケインのふざけた顔が、一瞬にして真面目な顔になった。
「終わったら、ちゃんと帰ってくるんだからな!逃げるんじゃねえぞ!リーセのためにも!」
ケインはにっと笑い、アリスに向かって指を指す。
アリスは笑って、言う。
「分かってる!」
アリスは立ち上がり、駆けて行った。
「・・・ふう。馬鹿じゃねえの?」
振り向いて、誰かに言う。

「・・・だと思う。でも、前に失敗してるから。」
リーセだった。
リーセは木陰から出てきて、言った。
「俺が言うよりも、ライバルと意識しているお前の方がいいと思ってな。 第一俺には素直に言ってはくれねえだろ。」
リーセはケインのとなりに座る。
「まあいいけど。ご褒美は?」
「え?」
「褒美だよ。・・・・・・なんちって。要らねえよ。お前のためでもあるし。 自分の顔見てみろよ。すげえ顔してる。」
リーセの顔は今に泣きだしそうな顔をしていた。
リーセは顔をごしごし擦る。
「・・・ごめん。」
リーセは謝る。
「・・・謝るなっての。そんで、リリーちゃんはどうしたのよ。」
「先、帰ってもらった。」
ケインは立ちあがる。
「じゃあ、一緒に帰るか。リリーの話を聞いてから、アリス追いかけようぜ。」
「ああ・・・」
そういって、ケインはリーセの肩を抱く。
「ケイン、調子に乗るなよ・・・」
「まあいいじゃねえか。」
「ふん・・・・・・」
二人は森から去っていく。
ここに、3人の想いを残して。


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