幻想大陸聖伝 テバジャ

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――第三章(二)――
forever song
 
「アリスがいなくなったって?」
「そうなんですう。昨日陽の沈む頃まではいたんですけど・・・
 さっき見に行ったら・・・」
「・・・・・・」
俺は昨日話した部屋にいる。

昨日はリリ−と話した後、この部屋に帰り、丁寧に謝った後いろいろな話をした。

「もしかして、さらわれた?」
ラムザがいう。
「そんなはずはないはずだ。だってこの神殿は入る事を許可された人しか入れないはずなんだろ!」
俺は興奮していった。
「ですが、それ以外はアリスさんが自分で出ていったとしか考えられません」
ラムザはマントを広げていった。
彼の格好はいかにもファイタ−といった格好なので暑そうだ。

どがどがどが

このおおきな足音はきっと司祭のペ−シェさんだ。
彼は部屋に入ってくるなり息を切らしてこういった。
「はあはあはあ、神殿内に・・・・はあはあ・・・進入者が・・・」
「進入者?」
「そう・・・です・・・。紫の・・・髪を・・・してい・・・る美・・・女・・・で・・・」
「紫の髪、ですって?」
紫の髪っていったらこの世界には一人しかいない。
そう、
「メゾナ?」
「メゾナって魔王腹心三大王フォッグ配下、七人衆第五席メゾナのことですか?」
「魔族・・・」
「さあ、僕らもそこに!」

「その必要はなくてよ!」

しゅん!

俺の目の前に女の人が現れた。
紫の髪、
右手に持つ鞭、
やはり・・・
でもどうしてここが分かった?
そしてここに入る事ができた?

「ふふ、どうしてここに入れたのか聞きたそうな顔ね。
 そうね、教えてあげてもいいわ。ある人がね、教えてくれたのよ」
メゾナがいう。
紫のロングの髪がゆれる。
「ある人?」
「そう、ある人よ。さあ、おしゃべりはここまでよ!」
ラムザはロングソ−ドを抜く。メアリ−さんとペ−シェさんは杖を構える。 俺はショ−トソ−ドを抜き構える。
「いでよ、我が僕(しもべ)エルシャ!」

しゃあん

メゾナの隣に人が現れる。
黒い布を全身に纏っているのであまりよくわからないが、
胸の所がわざとらしく開けてあり、女の人だという事が分かる。
顔は眼以外は黒い布で隠してあるので分からない。
大鎌を持っている。
「死神・・・?」

「くす・・・あなた達にとってはまさしく死神でしょうね」

大鎌女は大鎌を一振りした後、マグナ−シュ開放のための呪文を唱えた。
「レ・リ−ズ」

俺ははっきり言って驚いた。
彼女から出たマグナ−シュは闇魔法ではなく、
なんと、
火魔法だったからだ。
「魔族じゃねえのか?」
「誰が魔族だっていったの?この子はれきっとした人間よ。」
「人間?」
「ふふ・・・おしゃべりしている暇なんかなくてよ!」
人間は殺したくない!

俺は大鎌女とすれちがう。
目がうつろ?

操られているのか?

だったらなおさら殺せない!
こうなったら操り主であるメゾナを・・・!
「操っているわたしを倒そうという魂胆でしょうけど、無意味よ。
 だってその子は操られてはいないもの!」
なんだって?
「だったらなんで?」
「自分から来たのよ。わたしの元に。 瞳の色を変えたのはあなたたちに悟られないようにするためですって!」

ざしゃあ

俺の背後を大鎌女は切り裂いた。
「ぐあああ・・・・!!!」
「ほら、よそ見している場合じゃなくてよ!」
ポタポタ俺の左肩から血が垂れる。
「くっ!」
「治癒(ヒ−リング)」
ぽおお
肩が暖かい。
「リリ−!邪魔しないで!これはわたしの仕事よ!しかもリ−セ様はあなたの・・・・・・」
どういうことだ・・・・・
「大丈夫ですか?」
ばっっっ
「もしかしてリリ−、あんたは・・・・・・」
「・・・・・・・。そう、私は魔族側の人間です・・・・・・」

「魔族……」
「魔王様の配下三大王フォッグ様の手下七人衆第三席リリ−。 それがこのこの本当の名前。」
「違います!本当は……」
「魔族、だったのか?」
俺は信じられなかった。
なぜリリ−が?
初めて・・・・・・になった人なのに。
「そ・・・んな・・・」
「信じれば裏切られる。この世の常よ。」

カキイン!

「リ−セさあん。手伝って下さいよお。」
後ろの方からラムザがいう。
ラムザは大鎌女を相手にしていた。
どう見てもロングソ−ドと大鎌では大鎌の方が有利だ。
ぺ−シャさんもメアリ−さんもラムザと大鎌女が近づきすぎているので魔法は使えない。
「ラムザ!ちょっとまってろ!」
「さあ、どうしたの?バルジェスナを倒したちからはこんなものなの?」
くっ
どうする、俺?
あの力は簡単に操れそうに無い。
こうなったらあまり当てる自信はないけど!
何にもしないよりマシだろう。

バシュウ!!

俺はナイフを投げる。
大鎌女の首の根元をかする。
「きゃああああ」
大鎌女の背から血が吹き出る。
黒いマントが紫になっていく。
「ぐはあ!」
大鎌女は血を吐いた。
「ぐはっはっ!くっ!」
何でナイフが当たったくらいで。
しかもかすったくらいだ。
とても血を吐くとは・・・。
「いやあああ」
「どうしたんです?ねえ!」
ラムザは大鎌女の肩を揺する。
「いや!いや!いやあ!」
この声、まさか!

大鎌女は俺の方を見る。
黒いマントに隠れていない唯一の瞳が、水で濡れている。
水・・・涙!?
涙を流しているのか?・・・
俺は大鎌女に近寄ろうとする。
グワア!
俺の前に炎の壁ができる。
「なっ!」
俺は一声もらした後、強引にでも大鎌女に近寄ろうとする。
「だっ駄目です!その壁に近寄らないで!!大怪我をしてしまいますわ!」
リリーは俺の肩を押さえる。
「いやだ!こいつはもしかしたらあいつかもしれないんだ!」
!!
もしや!!
「お前が作ったのか?この壁を!」
俺はメゾナに怒鳴りかける。
「ふん」
メゾナは鼻を鳴らした後答えた。
「言葉はよく考えて使って下さい、リーセ様。 火の壁なのですからわたしが作ったはず無いでしょう。」
「!!」
「第一、私はこのことあなたを戦わせるのが目的。そんなことするはず無いでしょう?」
「っち!!」
ならどうしたってんだ!?
戦ってた俺を拒むなんて・・・
「にゃろお!」
火の壁に入って行こうとする。
「リーセ!!やめてえ!!」
このままだと大鎌女までが死んじまう!!
だから止めなくては。
「うわああああ!」
壁に触ったその時だった・・・

指がちりちりする・・・
こんままじゃ、まじやべえかも・・・
俺は目を閉じた・・・

カッ

目を閉じてもその明るさがありありと分かった・・・
体が熱い・・・
でも燃えるとは違う感覚・・・
何だろうこの感覚は・・・
俺は目を開ける。
「なっ」
辺りは一面の花畑だった・・・


forever dream
 
この花畑・・・何処かで見たような・・・?




「どうしてここに・・・」
俺は花に触ろうとした。
でも通り抜けてしまった・・・
「幻・・・か・・・」
俺が?花が?

俺は花畑を歩く。
しばらく歩いたら話し声が聞こえる
まだ声変わり前の男の子の声と、
女の子の声・・・

もっと近づいたらふわふわレ−スの服を着た女の子と
貧乏そうな服を着た男の子がいた。
「ねえ、いいものあげるう。」
「ん?なに?
 なにをくれるの?」
「ふふ〜。えつぶってて!」
「はいっ。」
男の子は目をつぶる。
男の子の額に鉢巻きが結ばれる。
「ん?」
男の子は目を開ける。
「ほうら、かがみ!」
女の子は鏡を差し出す。
「うわあ。ちゃいろのはちまきだ。かっこいいなあ。」
「でしょう?このはちまきはねえ、パパのかたみなんだ。」
「そんな大切なもの、もらっちゃっていいの?」
「うんいいの。あなたにわたしのことおぼえていてもらいから。」
女の子は頬を赤く染める。
同時に男の子の頬も赤らむ。
なんだか初々しい。
「んじゃあボクも、いいものあげる。め、つぶってて。」
「えっ。はい。」
女の子は目を閉じる。
ちゅっ
女の子と男の子の唇が重なり合う。
「えっ?」
「あのね、はじめてのチュッはね、『ふぁあすと・きっす』っていうんだって。

だからあ、ボクの『ふぁあすと・きっす』は“アリス”のものねえ」
"アリス”だと?
「あのね、わたしのね、『ふぁあすと・きっす』はね、“リ−セ”のものだよお」
アリスらしき女の子は顔を赤らめていう。
“リ−セ”!?
じゃあこれは小さい頃の俺とアリスなのか?
「え?そうなのお?それじゃあおあいこだよう。う〜ん。じゃあ、ボクのものあげるね。」
「きゃはっ。なにくれるのお?」
「はいっ」
「なにい?うわあ、うでわだよう。きんきらきいん。」
「えへ!おかあさんのかたみなの。あげるね。」
そういえばアリスの両手両足に金の腕輪が、あったような・・・
そして、俺の額には茶色の鉢巻き・・・

「リ−セ、帰りますよお」
遠くから声が聞こえる。
「んじゃあ、ボクかえるね、またあおうね!」
「うん!!」
男の子はそういって、走っていった・・・

そういえば、孤児院の先生がいってたな。
マグナ−シュは精神が事態化したものだよって。
強さも、大きさも、すべて心の強さで変わるんだよって・・・

そしてこうとも言っていた・・・
どのくらいで出すとか、強さで出すとか、 そういうものを頭で想像してマグナ−シュを開放するんだって。
だから幻だって作れるんだって・・・

俺は炎の壁に触った。
そのとき大鎌女の考えていたことが分かったのかもしれない。
とすると、この夢は大鎌女の考えていたことで。

やっぱり結びついた。
大鎌女=アリスだってことに・・・

アリスは覚えていたんだ。
俺とアリスが昔出会っていたことに。
それなのに俺は、
全然覚えてなくて。
どんな気持ちだったんだろう・・・

アリスはよくは覚えていなかったのかもしれない。
でも、
この一言だけは覚えていたのかもしれない。
小さい時の俺が走り去った後アリスが言った言葉・・・
「おおきくなってまたあったら、けっこんしようね」という言葉を。

アリス・・・

俺はお前をすきだった。
でもお前とは喧嘩ばっかりして・・・
なかなか言えなかったんだ。
恥ずかしさもあった。
そんな事言わなくても分かってくれてると思ってた。
でもどうして俺と敵対しようとするんだ?

お前がいなくなったと分かった時、
俺は心が締め付けられた。
お前がいないことに、
なれてなかったんだ、俺は・・・

ずっと一緒だった。
どんな時も。
助け合いながら、
二人でがんばってきた・・・

お願いだ!
戻ってきてくれ!
こんなこというのは自分勝手かもしれない!
でも、
お前に会いたいんだ・・・
お前のその微笑みを
もう一度見せてくれ!!

その時だった。
辺りの花はすべて消え去り、さっきのような眩しい光が目に溢れた。

はっ!!
俺は炎の壁の中にいた。
「熱くない・・・?」
どうしてだろう・・・
この柱も幻想とか・・・
でもそんなはずはない!
だってさっきさわったときは熱かった

「リーセ、あなた・・・」
「えっ!?」
「炎、浄化していますよ・・・」
「はあ!?」
俺はラムザの言っていることが分からない。
俺は手を見る。
!?
なんと、手の周りは白い光で包まれていた。
「壁・・・が・・・」
壁の色がだんだん薄くなっていく。
ヴワン
炎の壁が消えた。
「どういうことですの?」
リリ−が聞く。
「たぶん、リーセで浄化したのか、それとも自分の意志でか・・・」
ラムザが続けていう。
「神・魔は五大元素よりも上位に位置していますから、 リーセの神の力であの女の人の火の力を浄化することは可能です。 いや、相殺といったほうがいいかもしれません。」
「そうなの・・・」
俺は大鎌女に近寄り手を差し伸べる。
「おい!しっかり・・・」
大鎌女は俺の手を振り払う。
「なっ!!どうして!!」
大鎌女は肩を抑え、よろけながら立った。

その時だった
大鎌女の胸を漆黒の矢が貫いた・・・

赤い、でも赤とはいえない色の液体が広がっていく。
俺は何を言って良いのか、何をしていいのかわからなかった。
ただ。その場に呆然と立っているだけで・・・

誰も一言も言葉を発しなかった。
誰も動かなかった。
どうして良いのか分からないように。
立っていた。

どのくらいこの沈黙、いや無の時間が過ぎただろうか。
だが、それは女の声で破られた。

矢の飛んできた方向から考えて分かっていたんだ。
誰が、その漆黒の矢を射たか、ということぐらい。
でもそのことよりも、もっと大きい感情が俺を支配した。
支配した、というよりおおいつくしたというほうが正しいか。

血が、逆流する。
悲鳴を、あげながら・・・

                                 第三章完


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