幻想大陸聖伝 テバジャ

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――第六章――
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「さて、起きてアリスに会いに行くとするか。」
「ええ、そうして下さい。」
俺は掛け布団をたたみ、ベットを降りる。
部屋の入り口に立ち止まり、後ろを振り返った。
「さんきゅ。リリー。」
そう言って右に曲がる。

しばらく歩いて(ホントにこの神殿は広いな)神殿が見える。
神殿のつくりとして男子の部屋と女子の部屋との間に庭がある。
北に本殿、俺達が初めに入ったところ。西に男子、東に女子がある。 そして南に何といったらいいのか、本当の本殿がある。
とはいっても簡単なもので宝物殿、らしき建物だ。 俺はこの宝物殿を通って女子のところへ行くつもりだ。 いくらなんでも庭を突っ切るわけにはいかないから。 そしてなぜか宝物殿の一階の端に食堂がある。
一階を突っ切ろうとした時にメアリーさんを見かけて、話し掛けた。
「あっ、リーセ様、目が覚めたんですか?」
「ああ、ありがとな。今からアリスに会いに行くところ。」
「そうなんですか。じゃあこれ持って行ってくれますか?」
そういって、メアリーさんは台に置いてあった食事を俺に手渡す。
「私たちが持っていってくれると食べないんですが、 リーセ様だと食べると思うので。」
「そう。」
「リーセ様、何か食べますか?何も食べてないし。」
「俺は大丈夫。神族って言うのは結構物を食べなくても生きて行けるらしいから、 お腹すいていないんだ。」
「それでは、これ、お願いいたしますよ。」
と言い、男子のほうに行く。
「ふむ。ロールパンにビーフシチュー。 グリーンサラダになんかの果物。うまそうだな。」
となんか、独り言を言ってしまった。
俺、なんか変わったか?
そう、自問をして。
なんで俺は、神族が物を食べなくても大丈夫だって事知ってるんだ?
「まあ、どうでもいいや、とにかく持って行こう。」
トレイを持って東館へ向かう。
「どうでもな……」

ここ、だったよな?
本殿から三つ目の、扉がある部屋。
俺は扉の前に立ち、
トントントン
と、三回ノックをする。
すすり声が聞こえる。
泣き疲れた声で返事をする。
「だあれ?」
「…………」
カチャ
扉を開ける。中は暗く、扉から入る光が線状になっている。
丁度その光の先がアリスの顔に当たる。
アリスは眩しそうな顔をした。しばらく光を見ていないんだろう。
顔を見てみると、目の下は赤く腫れ上がっている。
「あっ、やめて、眩しい。」
俺は、扉を閉める。
「誰?誰なの?」
そう尋ねられたけど、俺は答えずに、テーブルに食事を置く。
そして、アリスの寝ているベットに近付く。
アリスは起き上がり怯えた素振りをする。
薄い布を胸で抑えて、怯えている。
「やめてぇ、近付かないでぇ!!」
アリスは壁のほうに逃げる。
俺は急ぎ足になって、アリスに近づき、

抱きついた……

「心配させんなよ、馬鹿……」
俺は思いっきりきつく抱く。
「その声、リーセ、なの?」
「ああ。」
アリスも、俺の背中に手を回し、
「よかった、助かって……」
「心配させるな。」
「うん。」
そういって、お互いきつく抱き合った。
「大好き、大好きよ、リーセ。」
「ああ。俺も。」
「もうあんなことしないから、私から離れていかないで。」
「ああ。」
「他の娘なんてみないで。」
「当たり前だ。」
「約束、忘れていないよね。」
「忘れてないよ。結婚の約束だろ?」
「うん。そう。」
「後で、ペーシャさんに頼んで、結婚式、あげよっか。」
「え?」
「結婚しよう。」

「ほんと……に?いい……の?」 「でも、俺が人間じゃなくてもいいのか?財産なんか無いんだぞ。」
「いいの、私が好きになったのは、アナタ自身だから。」
「ありがと。」
「ううん、私がいけないの、リリーに嫉妬してたの。 私には吹いてくれなかった笛、吹いてたじゃない。」
「そう?だったら、いっぱい吹いてあげる。 いっぱいいっぱい嫌って言うほど吹いてあげる。」
「ふふ、ありがと。」
「世界で一番大好きだよ。」
そう俺は照れながらいった。
(もう、こうなったら、のりでいっちゃえ)
そう、魔が差したような気がした。
そして、俺達は唇を重ねあった。

「それじゃ、さようなら。」
俺達は神殿を出る。
メンバーは、俺、ラムザ、アリス、そしてリリーだ。
何故リリーが一緒に来たのか。それは、母さんを探し出すためだそうだ。 アリスはかなり不満がありそうだったが、まあ、しょうがないだろう。
俺とアリスは、あの翌日、結婚式を挙げた。 立ち会う人は少なかったけど、そのほうが良かった様な気がする。 まあ、結婚してもパートナーだから別に対してかわりはないんだけど。 でも、アリスがご飯を食べてくれてほんとに良かった。
俺達は南東に向かう事にした。南東には商業都市、アレンがある。 海のあるとても綺麗な場所らしい。神殿は見つかったから、逃げなくちゃいけないんだけど。 この世界をアチコチと逃げるつもりだ。

砂漠を抜け、高原が広がっている。
俺達は高台に立って、辺りを見回す。
「あっあそこじゃねえか」
目の前に広がる緑色の草原の先に、海が見え、その境界に町が見える。 確かに静かな、綺麗な街のようだ。
「そうね。行こうか。」
爽やかな風が吹く。俺はこの後、懐かしい人に再開する事を、まだ、知らない……。


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