「うわぁ、静かな町……」
聞こえるのは波の音。
そして、小さな子供たちの声。
「じゃあ、まず宿屋、探そっか。」
ラムザがいうと、続けてアリスが、
「海が良く見えるところがいいな。」
ここ、アレンは、海に向けて坂になっているので、何処でも海は見えるだろうけど、
アリスの言ってる事は、海が綺麗に見えるところだろう。
「そうだね、どのへんがいいんだろう。」
俺は、メアリーさんからもらったこの街のガイドブックを眺める。
「ココがおすすめだって書いてあるけど。高そうだぜ。」
ガイドブックの宿屋のページの最初のやつを指す。
「高級ホテル、ナンジェ。ココから見える海は最高!
綺麗な夜景とともに……省略……一泊250G。」
250Gといったら簡単なショートソードが買える金だぞ!冗談じゃねえ!
「あっ私ココがいい!!」
アリスが指差した先は“宿屋グランシェール”
安そうだけど、結構あったかそうな宿屋だ。
「そうですね、ここにしましょう。」
俺達は、宿屋に入る。
それから俺達はそれぞれの部屋に入り(なぜか俺とアリスだけ二人部屋だった)、
一眠りして、夕ご飯を食べに、食堂に入った。
俺はビーフシチューに、コーンサラダ。
アリスはシーフードサンドイッチ(ここの魚は本当にうまいらしい)に、
コーンポタージュスープ。
リリーはカジキマグロの照焼きにシーフードサラダ。
ラムザは、ハンバーグセットを頼んだ。店はかなりうるさい。
酔っている人がかなりいるようだ。そんな中……
ガシャン!!
その皿の割れる音に、周りはざわめいて、その音がした方向を見る。
「なんだとぉ〜。客の俺に文句をつけるのかぁ〜。」
その音の主は酔っ払っている30くらいの大男。
「あぁ〜?なんかいえよこらぁ〜。」
店の従業員らしい男のむなぐらをつかむ。
従業員の顔はこっちからでは良く見えないけど、背は俺と同じくらい。髪は、黒。
「顔がいいからって、いい気になんなよなぁ、こらぁ〜」
そう言い、体を揺する。
その時、従業員は大男の腕をつかみ、
「いいかげんにしろよ、この糞やろう!!」
そう、言った。
もちろん大男は怒り、右手で殴る。
ガシ!!
その右手のパンチはあっさりと受け止められ、そしてその大男を床に叩き付ける。
「ざけんじゃねえぞ!お前のような糞野郎なんか客じゃねえ!とっとと金払って消え失せろ!」
大男はすっかりびびり、金を置いて、店を出た。
「ふう……」
従業員は息を吐き、汚れを落とそうとした。
だが、そんな事ができるはずも無い。
あっというまに酔っ払っている連中に囲まれた。
「すっげえな兄ちゃん!」
「兄ちゃん、いっぱいおごるから、こっちに来いよ。」
一瞬、その従業員と目が合い、離せられなかった。
あの投げ技といい、あの瞳といい、何処かで見たような気が……。
「リーセ!」
その従業員は俺に近付いてきた。
黒くて短い髪、意志の強そうな瞳、まさか……。
「リ−セ!俺だよ!ケインだよ。」
そういって俺に抱き着いてきた。
「久しぶりだな!元気してたか?」
俺はすっかり目が点になっていた。
なんで、ここにケインが?
「ちょっとなにすんのよ!」
アリスが叫んで、俺とケインを離そうとする。
「あんただれよ?」
ケインに向かって叫ぶ。
「俺はリーセの幼なじみのケインだ。孤児院時代のな。お前こそ誰だよ。」
そう言われて、アリスは戸惑う。
「そ、それは……」
「アリスさんはリーセさんの妻ですわ。」
アリスが戸惑っているのをみて、リリーが助け船を出す。
「妻ぁ〜〜!何でこんなやつが!」
「こんなやつぅ?」
「そうだよ!なんでこんな美人じゃないやつを!」
今度は俺に向かってくる。
何で俺まで。
なんかこの先、大変そう……。
「んで?何でお前はここにいんだよ」
「ああん、リーセってばつ・れ・な・い(はあと)」
「げぇ……」
さっきからこの繰り返し。
ケインは何も言おうとしない。
「だから、何でお前は……」
俺が言いかけると、ケインは俺の唇に人差し指を当てる。
「その前に、オレ達が別れてからの事、教えろよ。自分の事教えてからそのこと聞けよ。」
「……」
「話してあげたらいいじゃない。私とリーセの出逢いから。」
「分かったよ。」
俺達は食堂を出て、宿屋に戻り、俺とアリスの部屋に入った。
リリーは五人分のお茶を煎れに、下に降りていった。
俺は別れてからの事を話した。
ただ、最近の事、例えば俺の親の事、魔族、神族のことなどは除いて。
「はあん。そいで?なんでこんなちんけな町に?」
「それは、海を渡ろうかと……」
「海?ふうん。」
「さあさあ、お前の事、教えろよ。」
「はいはいっと。」
ケインは、別れてから何でも屋をしている事をいった。
そして、この一年間はここに定住している事も。
「試験、受けたのか?」
俺は思わず聞いてみる。比較して、強さも分かるし。
「いんや。」
即座に答えるケイン。
「はあ?試験受かんなくちゃ何でも屋、できねえだろ。」
「だから、裏だよ。う・ら。」
「裏って、暗殺とか?」
「オレはそこまでいってないぜ。せめて小さな復讐程度だ。」
「小さなって。」
ケインは椅子を引き、寄りかかる。
「リーセ、お前何でオレがこの町に滞在してんのか、分かるか?
船出すのに、思いっきり金かかるんだぜ。近い街でいっても5000Gはかかる。
俺達が二年間ぐらいみっちりと働いてでる金なんだ。しかもお前達四人連れだろ。
20000Gもかかんだぜ?何処から金出すんだ?」
「それなら心配いらない。金なら持ってる。」
俺達はメアリーさんから船代として50000Gももらっているのだ。
その瞬間ケインが擦り寄ってくる。
「リィセくぅん。」
「なんだよ。」
「オレ、連れて行って欲しいかなって。」
「駄目だ。」
俺はすぐさま答えた。
「俺達は尋常じゃない事を背負っているんだ。お前は巻き込めない。」
「でも……」
「駄目だ!!」
「まあまあ。」
今まで黙っていたラムザが止める。
「どんなに危険が待っていてもいいって言うんだったら連れて行ってもいいですよ。」
「ラムザ!!お前何考えている?」
ラムザは、俺のほうを見て目配せする。
「本当か?連れて行ってくれ!」
「ちょっと、何勝手に決めてんのよ。私いいと言ってないわよ。」
「まあまあ、宜しく!アリス。」
「呼び付けるなあ。」
ラムザにしても、ケイン、アリスにしても、この先大変そう……
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